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第15話:伝説の夜 - 幕開け


〔みんなごめーん☆ 日曜の配信なんだどさ、昼行動って言ってたけどやっぱり夜に変更しちゃうね〕


 迎えたいつもの金曜日配信。

 申し訳なさそうに手を合わせ、ウィンクするフューたんがいた。


 うん。今日も可愛い


:了解だよー

:連絡助かる

:なんか用事?

:無理せず休んでもええんやで

:休日夜勤の俺オワタ


「日曜日は夜行動か……お、それめっちゃ助かるな」


 丁度その日は、例のポコライオンさんから教えてもらった副業の面接だ。

 唯一の懸念が日中に予定されていたフューたんの配信と重なることであったが、これで悩みは見事に解消である。


〔日中ちょっと予定がはいちゃってさー。ごめんね☆ その分夜は……ひっさびさに甘々ASMRでもやっちゃおっかなっ‼︎〕


:うぉおおおおお

:キター

:既に興奮してきますた

:予定ってなにー?

:全裸待機不可避


 うぉおおおおおおおまじか!?


 咀嚼そしゃく音や吐息といった繊細な音までを拾うことができるバイノーラルな……人の聴覚に近い特殊なマイクを使うことで、まるで耳元にフューたんがいるかのような体験ができるというASMR配信。


 その特性から、会話の内容はカップルを想像させるような甘々でいちゃいちゃ、そしてちょっとだけエッチになる傾向があり、別名ガチ恋製造配信とも呼ばれている。


 楽しみではあるが……これでまた恋のライバルが増えてしまう……まぁ勝手に俺が想ってるだけなんだけど。


『パシリスさんのこと、あーし大好きだよ♡』


 なんてセリフを初めて聞いた時、脳が蕩けるかと思った……。それほどまでにフューたんのASMR配信は破壊力抜群で、正直この四文字の音を聞くだけで脳内では麻薬物質が溢れ出ていた。パブロフの十理とおりの完成である。


 既にギンギンのバキバキ……。

 もちろん目の話だ。


「やべぇ、アドレナリンで今日眠れる気がしない」


〔予定ってなにー? ──── うーんと、これ言っちゃっていいのかな? ま、いっか。日曜はつづりんとお出かけでーす☆〕


:おぉおお

:てぇてぇ

:フユツヅてぇてぇ

:フユツヅはいいぞぉ


「へぇ、やっぱ二人仲良しなんだなぁ」


 フューたんとつづりんのプライベートなオフの話題を聞き、つづりんのチャンネル登録は間違ってなかったと改めて確信する。ヴァー学はタレント同士の仲の良さも売りにしているが、特にこの二人は噂に違わぬ関係のようだ。


「やっぱりこれからはつづりんの配信も追うか……。う、浮気じゃなくて。フューたんのためな、そうそうフューたんのため」


:* フューさん、それ言わない約束ですよね!

:おっ

:つづりんもようみとる

:つづりんもようみとる


「ん?」


 俺がクッションのヒヨコに向かって浮気の弁明をしている中、コメント欄にはヴァーチューブの公式認証マークをつけたつづりんが現れたらしい。彼女の登場で、一気に文字の流れるスピードが跳ね上がった。


〔お、つづりんじゃん☆ そ、そうだっけー? ごめんごめん〕


:フューたんこれ、やっちゃえば?

:たしかに、つづりんならピッタリ

:なるほど今日は金曜日

:なんというタイミング


〔あ、そうだね!! 今日の参加型ヴァペ配信だけど、つづりんも呼んじゃおっか☆ おーいつづりん、みてるよねー? 今からヴァペやろうよー〕


 そんなフューたんの発言によって、滝のごときコメント欄はさらに激しくザワつきはじめた。


:ちょ、神展開きた?

:つづりんくるか!?

:つづりん配信予定大丈夫かな?

:え、二人とできるってこと?

:ヴァー学最強のヴァペタッグじゃん


〔んー? 反応ないか……えぇーい逆凸じゃー! うりゃー☆〕


「なんという行動力の化身……まぁ、そういう所も推せるんだけど」


 ペコンッペコンッ♪

 ペコンッペコンッ♪

 ペコンッペコンッ♪


「…………」


:……

:……

:……


 荒波のような激しさから一変して凪のように静まり返るコメント欄。


 フューたんがつづりんを呼び出している通話アプリの音に、ほぼ全てのリスナーが息を飲んでいるのが伝わってきた。


 ペコッ♪

 

〔ちょっとフューさん。無茶ぶりすぎですよ〕

〔とかいって来てくれるんじゃーん☆〕


:うぉああああああ

:つづりんきたああ!!

:まじっ!?

:神回確定です

:綴り手の俺歓喜

:同接跳ね上がったw


〔訳あってフューさんが配信してる時は暇なんですよ〕

〔ふっふっふー、それを知っててかけたんだよー☆〕


:訳?

:フューたんの配信見てるってことか

:なにそれてぇてぇが過ぎる


〔でも……今日ってリスナーさん参加型配信じゃないんですか?〕

〔そうだよ☆ だからつづりんにも参加してもらおうかなって〕


〔ダメですよ、私が入ったら参加枠が一つ減っちゃいます。と……皆さんフューさんと一緒にやりたくて来てるんですから〕

〔ぶーぶー、いいじゃん。あーしがやりたいんだし。ねー? パシリスさんも許してくれるっしょ?〕


 愚問である。

 太陽のように煌めくこの満面の笑みを誰が否定できようか。


:全く問題なし

:むしろこれが見たかった

:この二人とできるとかヤバイ

:見てるだけで満腹です


「うんうん。フューたんがやりたいようにやるのが一番。……それに正直つづりんのことは気になり始めてたしな、二人共見れるとかまさに一石二鳥じゃん」


 画面の左右に美少女が二人。

 なるほどここが天国……運営さん、いいのでしょうか? こんな神コンテンツが無料で見られてしまっても。


〔はい決まりー!! ヴァペ起動してちょ〕

〔いや、でも……〕

〔もう部屋立てたもんねー☆ 今つづりんにパス送ったー、早く入って入って〕

〔全く、強引なんですから……。入りました、けど本当に一枠減っちゃって大丈夫ですか?〕


〔全然全然大丈夫だ ──── あーならさ? 一枠減った分、コメントの皆にも参加してもらっちゃう、とか?〕

〔コメント……リスナーさんですか?〕

〔そうそう、あーしらの順位を予想してもらうの☆ こんな感じで、オモロくね?〕


 ピコッ──。っと音を立て、コメント欄を覆い隠すように現れたのは、一位から三十三位までのラジオボタンがずらっとマトリクス化された順位の予想表だった。


 これはヴァーチューブの機能で、リアルタイムで視聴者が配信者の設定したアンケートに投票できるというものである。


 少し前までは四つほどの選択肢しか設定できなかったのだが、最新のアップデートでバラエティに富んだカスタマイズができるようになり、ヴァペのように参加者の多いゲームでも、細かいランキングの表現が可能になっていた。


〔リスナーさんのランクは分かっちゃうと面白くないから、非表示モードにしようかな〕

〔本当フューさんは色々思いつきますね〕


〔折角だしつづりんも参加ね☆ 当てたら相手に罰ゲームを命令できるってことで〕

〔へっ!?〕


〔あーしが当てたら、つづりんには恥ずかしいボイスを撮ってもらいまーす☆〕

〔フューさん!?〕


:うぉおおおおおお

:天才じゃ天才がおる

:フューたんナイス

:やはり神展開


〔もちろんつづりんが当てたら、あーしも撮るよ☆ 恥ボイス〕

〔恥ボイスってなんですか……流石に強引すぎますよフューさん〕

〔えー、綴り手さんもノリノリだと思うよ? ほら〕


:つづりん普段こういうのやらないから新鮮

:つづりちゃんのえっなボイス希望

:ごめんつづりん...欲望には逆らえねぇ

:綴り手だけど、フューたん応援します


〔綴り手さん!?〕

〔おやおやぁ。これじゃあ断れないねぇ、つづりん〕

〔もぅ……本当にフューさんは。分かりました、いいでしょう。でもやるからには負けませんからね?〕

〔うっし‼︎ そうこなくっちゃ、じゃあパスワード公開するね☆〕


 同接はまさかの十万越え。

 もはや何か大型イベントレベルのリスナー参加型配信が始まったのだった。

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