第13話:身バレ
あ、思い出した!! そうだそうだ。
つい先ほどまで落選のショックで忘れていた記憶……先日のジョン松との会話が、今のポコライオンさんの声で鮮明に脳裏へ蘇ってきた。
例のポコライオンさん = 詞ノ葉つづり説である。
「そうそう。唐突なんだけど、ポコライオンさん。詞ノ葉 つづりってVtuber知ってる? ヴァー学の」
〔(ガタガタガタッ)〕
「えっ!? 大丈夫? 凄い音したけど」
〔だ、だだだだ大丈夫です。ちょっと飲み物をこぼしちゃって……〕
「おっと、キーボートとかデバイスは無事?」
〔……な、なんとか大丈夫でした〕
「おぉそっか、良かった」
〔そ、それより詞ノ葉 つづりさんがどうかしたんですか? いいい、い、一応知ってはいますが〕
ん? なんか違和感があるな。
ポコライオンさんから感じる不自然なヨソヨソしさと、いつもより震えている声。はてさて、彼女はなぜこんなにも動揺しているのだろうか……。
飲み物が何か大事なものにかかってしまって気が気でない?
いや……詞ノ葉 つづりの名前に反応した気が……。
「いやね、こないだジョン松とつづりんの配信を見てたんだけど。ポコライオンさんと声似てね? って会話になったんだよ」
〔へ゛、へ゛ぇ。そ゛うなんですね〕
彼女の震えていた声が、突如ダミ声になった。
やはりおかしい……。
「急にどした……あ、マネしたってこと? ちょっと違うかな。詞ノ葉 つづりはポコライオンさんより高い感じなんだよね」
〔そ、そうなんですか……で、でもあれですよ? ああいう声質の女の人って、けっこういますよ〕
「えっ、そうなの!?」
まじか……。
けっこう特徴的だと思ったんだけど、つづりんみたいな声の女性ってそんなにいるんだ?
………。
脳内でN数を増やして検証しようにも、まずもって俺の友好関係に女性がいなさすぎた。
パッと思いつく限りでフューたんと、ポコライオンさんと、杁ヶ池ぐらい……しか最近まともに女性の声を聞いていない気がする……。
井の中の蛙大海を知らず、ポコライオンさんをからかうつもりが、まさか俺がダメージを受けることになるとは。
〔で、ですです。つづりさんの声なんて普通にいっぱい……それはもう星の数ほど〕
「ほぇー、そうなんだ。つづりんの声、結構俺の好きな感じだったんだけどな……」
〔す、すすす好き!?!?〕
「うん。だってめっちゃ可愛いくない?」
〔 ──────── ッ!!!!〕
ん? なんかイヤホンの奥でモスキート音みたいなのが鳴ってるが? ノイズか? ポコライオンさん、ノイキャンつけてなかったっけ?
「あー、あー。聞こえる?」
〔わわっ、は、はい。聞こえてま、す、すいません〕
あ……。
冷静になってみると、つづりんとポコライオンさんの声が似ているという話をしているのだから今の発言はけっこう恥ずかしいことを言ってしまったのではないだろうか……。
ちょ、ちょっとキモかったかな?。
そんなむず痒い感覚が、ライオンのアイコンからスッと目を逸らさせた。
ま、まぁ俺が言ったのはつづりんのことだし大丈夫……だよな? セクハラとかになってないよな? ……ってもうこんな時間か。
逸らした目線の先、時計の針は深夜の二時を指していた。
「ま、まぁそれだけの話……ってごめんこんな話に付き合わせちゃって、そろそろ寝 ──── 」
〔ち、ちなみに!!〕
「ん?」
〔その…… 詞ノ葉 つづりさんはどうですか?〕
「えっと、どうっていうのは?」
〔い、いや。とり蔵さんって今、フューさん一筋じゃないですか? 声が好きなら、つづりさんも推したりしないのかなーって〕
「んー…………」
それは全く予想していなかった質問で。かつ、かなり頭を悩ませるものだった。
確かにつづりんは可愛いし声も良い。
だがどうだ?
だからといってつづりんも推しにするというのは最古のパシリスとしては許されるのだろうか?
「正直心揺さぶられたんだけど、パシリス兼 綴り手だと浮気してるって感じするから……どうしようかなってとこ。やっぱり俺はフューたん最推しだし」
〔っ………。で、でもっ、つ、綴り手さんって多いですよ? フューさんも推してる人。わた──じゃなくて、つづりさんってフューさんと仲良いから〕
「へぇ、なんか詳しいね?」
〔あ……、い、いやっ違がくて!! そ、そういうまとめサイトを見たことがあるんです〕
「ふーん……まぁそうだなぁ、推しって言い切るかはあれだけど、暫くつづりんの配信も見てみようかなっては思ってる。実はチャンネル登録しちゃったんだよね」
〔ヘっ!? 本当ですか!!……(やったー!!)〕
「…………ん? やったーって言った?」
〔あ……違っ〕
やはり間違いない。
今日のポコライオンさんはどこかおかしい。詞ノ葉 つづりの話をしてからテンションが妙だ。それに、いつも思っていたがVtuberに関して彼女は詳しすぎる。
つづりんの話をすると動揺して、Vtuberの話題に詳しい……。これはもしかして……。
「ねぇポコライオンさん」
〔ど、どどどうしました?〕
俺は頭の中を整理しながら、溜めるように言葉を紡いだ。
「もしかして、ポコライオンさんってさ……実は……」
〔えっ、えっ、えっ!?(やばっ……)〕
これまでの情報。今日の反応。そこから導かれる答え。彼女……、ポコライオンさんは恐らく ────
「綴り手でしょ?」
〔(ガタガタガタッ!!)〕
「ちょ!? 大丈夫? また凄い音したけど」
〔は、ははっ……さ、流石ですねとり蔵さんは……そうきましたか〕
この反応、やはり図星か。
やっぱりなー、やけにVtuberに詳しいからリスナーなんじゃないかと思ってたんだよな。最近は女の子のファンも増えてきたらしいし、ヴァー学も成長したもんだ。
「もっと早く教えてくれりゃいいのに。今までジョン松しか話し相手いないと思ってたからこれは嬉しい誤算だよ」
〔ははは……すみません……〕
ポコライオンさんが綴り手だということであれば、先ほどの『つづりんは推さないのか?』という投げかけにも納得がいく。
「さっきのもアレか、綴り手として俺につづりんを布教しにきてたってことね」
〔ま、まぁ。もはやそれでもいいですけど……〕
「……?」
少し煮え切らない感じではあるが……俺もポコライオンさんやジョン松にフューたんの動画を布教してたし、彼女の気持ちは痛いほど分かる。
よし、ここは期待に応えないとな。
それにチケットの恩もある。
「そういうことであれば、つづりんのおススメのアーカイブ教えてよ、見てみる」
〔へっ!? わ、分かりました、見繕っておきますね〕
「よく考えると、フューたん以外のアーカイブなんて見ることないからちょっと楽しみだなー未知との邂逅的な」
〔は、ははは……(これで良かった……んだよね?)〕
「? じゃあ今日はそろそろ俺は落ちようかな」
〔そ、そうですね、もうこんな時間だし〕
「チケットの件本当ありがとう。今度また何か別のお礼させてね」
〔ふふふっ、本当気にしないでください。ではおやすみなさーい〕
ペコンッ♪
「いやー......激動の一日だった」
本当、ポコライオンさんには感謝だ。彼女はああ言ってるけどちゃんととお礼しないとダメだよな……。
都内住みって言ってたけど、会ったこともないし、ご飯とか誘ったらキモがられるかな……くそー、こういう時何をすれば良いのか分かんねー……。
その日、俺はポコライオンさんへのお礼を考えながら眠りについた。
◇◆
ペコンペコンッ♪
ペコンペコンッ♪
ペコンペコンッ♪
ペコンペコンッ♪
ペコンペコンッ♪
ペコンペコンッ♪
「んんっ……誰よこんな時間に……えっまたつづりさん!?」
ピッ。
「どうしました!? なにかまたトラブルですか!?」
〔マネージャーさん!! 今からオススメのアーカイブ選ぶの手伝ってください!!〕
「は?」
〔面白いとか、ポンとかじゃダメですよ!! 一番可愛いやつ!!〕
「えーっと……今何時だと」
──────
〔ちょっとこれはセンシティブ過ぎます。エッチな子だと思われちゃうかも〕
「いや、実際ムッツリだからいいのでは?」
〔却下〕
────次。
〔これもダメですね、他の子が目立ってます〕
「ヴァー学の宣伝にもなるし結構いいと思いますが」
〔却下〕
────次。
「パズルゲーとかで頭の良さを見せては?」
〔ダメです、とり蔵さんパズルが神がかり的に上手いので〕
「んー、じゃあホラゲーとかどうですか? か弱さアピールするとか」
〔マネージャーさん……天才ですね〕
「そりゃあ全部チェックしてますからね、つづりさんの魅力は知り尽くしてますよ」
〔よし、じゃあ今からホラゲーのアーカイブ全部見ますよ〕
「いやいやいや、何個あると思ってるんですか」
〔倍速十六窓でいきましょう〕
「ワッツ!?」
(つづりさん……彼のことになると性格変わりすぎでは……)
この夜、詞ノ葉 つづりとそのマネージャーによる、地獄のアーカイブ漁り耐久が始まっていたことを十理が知るのはまだ先の話である。




