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七話


 翌日、教会の執務室でワィオンはユティルダと向かい合っていた。

「説明してもらおうか。あれは定奇跡(セーメイオン)ではないな。何をしたんだ?」

「ユティルダ様、貴女の信心を認め、全てをお話しします」

 ワィオンは自分に起きた事、大主教の策謀で処刑された事、神の力で転生した事を、全て話した。

「……(にわか)には信じられんが、天罰(ディケー)を無効化できる力を普通の人間が持つとは思えん――しかし、お前はこれからどうするつもりだ?」

「……この教会の先代主教は、素晴らしい方でした。この村において、ジノ教に不信を持つことはありませんでしたが、マクリチのような者が、主教になるのを見て、あの四人の大主教により、ジノ教があるべき姿を失っている事を実感しました」

「十四年前から大主教は、ヴァシリウ、アレクシオチ、イオアニワィス、エコノモウの四人だ。彼らがジノ教を豊かにしたと言う者もいるが、黒い噂もある」

「私を導いた声は、二つの道を示しました。汝の布教をせよ、敵を射て。私は四人の大主教を討たねばなりません」

「……私はまだお前を信用できない」

「そうでしょうね。協力は頼みません。ただ、貴女の信心に従っていればよいのです。私は聖職者に見合う行動を示しました。貴女には主教として、私に輔祭(ディアコノス)の神品を与えていただきたい」

「……そうだな、それは承知しよう。ただ、特別扱いするつもりはない。それと、さっきの力を私利私欲に使っていると判断すれば――」

「貴女の手を、私の血で汚させないと、約束しましょう」

 

 ワィオンはユティルダから、神成の証を受け取った。その後、教会の祭壇で、ワィオンはユティルダから神品機密(イェロシニ)を受け、輔祭に叙聖(じょせい)された。ユティルダは祭壇で天に問うた。

「神に祈る、この者を輔祭として認める事を。神に問う、この者が値する者かどうかを」

 ワィオンの頭上から白い光が降り注いだ。ワィオンが両手で握っていた、黒水晶のブローチに、小さく白い光が灯った。周りでは教会の聖職者たちが聖歌を歌っている。ワィオンはかつて同じ経験をした時の事を思い出した。

 (あの時、自分のために歌ってくれた聖職者たちは、私が異端者として処刑されたのを知って、どう思っただろうか――)

 

 ワィオンはこれから自分が行う復讐は、自分のために聖歌を歌う者たちへの裏切りになるのだろうかと、祈りを捧げながら、自問自答した。

 神品機密が終わると、ユティルダはワィオンに話しかけた。

「神品機密は、受けた経験しかないので、上手くいくか心配だったが、不備なく終わって良かった」

「初めてにしてはお上手でしたよ。お年を召した主教様はフガフガと喋りますし、説法を追加したりするので、聖歌を歌うタイミングが難しいんですよね」

定奇跡セーメイオンはどうだったんだ?」

「……前と同じでした。麺麭増大(アルトスアフサノ)。一般的なものです」

「そうか。まぁ、悪くは無いさ。人のためになる力だ」

「神聖隊の方の定奇跡セーメイオンは、自身の肉体に影響を与えるものが多いそうですね」

「ああ。定奇跡セーメイオンには、直接人を傷つける力はほとんどない。なので、自信を強くすることで、敵を倒すのが一般的だ。お前のように、特殊な力を持つ者も中にはいるがな」

「ところで、ユティルダ様はいつまでこの教会にいるのですか?」

「ああ、そのことか……私はこの教会の主教が亡くなった事を伝えに来ただけで、主教代理になったのも成り行きだ。まずは、マクリチが神品を取り上げられた事を、大主教に伝えねばならんな」

「……エコノモウ大主教ですね?」

「ああ。お前の事は黙っている、心配するな」

「私もお供しましょう」

「お前は輔祭になったばかりだ。ここで覚えることがある」

「それは問題ありません。元司祭ですから」

「……しかし、今のお前はまだ輔祭だ。エコノモウ大主教にお目にかかる事は、難しいぞ」

「かまいません。彼に近づく方法を考える必要もありますから」

「あのー、ワィオン様、よろしいですか?」

 声の方を振り向くと、協会におずおずと入っいて来たのは、農夫の娘だった。

「ああ、先日の。どうかしましたか?」

「私は【ヤナ・ヤヌリチ】と申します。ワィオン様のご尽力で、父が助かったと聞きまして」

「ああ。お父上には非が無かったのだから、何も気にすることはないですよ」

「いえいえ、ワィオン様はご立派な方だと、よく分かりました。それで、私はワィオン様に従者として仕えたいのですがよろしいですか?」

 【従者】は聖職者に仕える者で、一般的には、主教以上の者に、聖職者ではない教徒が仕える。大主教などには、聖職者が従者として仕える事も多い。

「私はまだ輔祭だ、従者など従える立場ではない」

「大丈夫です。ワィオン様ならすぐに主教になれます」

「主教にはそんな簡単になれないぞ」

 ユティルダから冷静な指摘が来た。

「私は修道校に通ってませんので、ジノ教の事を教わるだけでも構いません。どうかお願いします」

 「……どうしましょうか?」

 ワィオンはユティルダに指示を仰いだ。

 「私たちは用事でこの村を離れるが、どうする?」

 「よろしければお供します」

 「ふむ……いいだろう。ワィオン、お前の旅、一人では終えられまい。同志を募るのも必要だろう、それほどの苦難の道だろ?」

 (ユティルダの言う通りかもしれない。私一人の力で、四人の大主教を罰することは出来ないだろう)

 「分かった、君の好意を受けよう。ヤナ、私の布教を手伝ってくれ」

 「はい、これからよろしくお願いします」

 ヤナはワィオンの手を握り、深々と頭を下げた。


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