十四話
「はえー、建物がぎっしり詰まって、隙間がありません!」
「ロッタリア地方最大の都市だからな。エーゲ連邦国の最大の貿易拠点でもあるぞ」
「この都市に所属する、行商人や御者は、他の都市に所属する、全ての行商人や御者より多いと言われています。ロッタリアはエーゲ連邦国の食糧庫、それを裏付けるものですね」
アグラニケ神殿の牛肉を倉庫に搬入する際、モラチがいないために混乱があったが、ユティルダがモラチの件を説明した、トフィロウ府主教の手紙を見せて、手続きを終えた。
「私はエコノモウ大主教に会いに行くが……どうする?」
「私は遠慮しておきます。トフィロウ様が来られるまで、彼と会うのは避けておこうと思います」
「そうか……では、【アイア教会】に向かうといい。ロッタリア都にある教会で、メラニアを応援している、貴重な教会だ」
「分かりました――それと、ユティルダ様、エコノモウ大主教には、マクリチとモラチを裁いたのは、ユティルダ様だということにしておいてください」
「ああ、お前の事は伏せておくよ」
「それだけでなく、できれば宣戦布告もお願いします」
「――私でいいのか?」
「私とトフィロウ様が自由に動けるように、ユティルダ様には囮になっていただきたいのです」
「私より、メラニアの事に、警戒がいくのではないか?」
「さぁ、どうでしょう。神聖隊は眼を引きますからね」
「……そうか。普段は煩わしいが、ここで役に立つかもな」
「くれぐれも挑発に乗らいように、気を付けてください。ご健闘をお祈りしています」
「そちらも、無理をするなよ」
ワィオンはヤナと共にアイア教会に向かい、主教にトフィロウ府主教の手紙を見せた。
「……そうですか、トフィロウ府主教は決意されたのですね――」
主教の顔には迷いが現れていた。
「我々はトフィロウ府主教に協力するために、ロッタリア都の他の教会やジノ教徒を確認したいのですが……」
「それでしたら、一度、街の中を見られた方がよろしいですね。【ムラト】、彼らを案内して差し上げなさい」
呼ばれたのは三十代半ばの男性だった。服を見るに、長司祭らしく、腰の神成の証は白く輝いている。マクリチとモラチとは違い、しっかり徳を積んでいる人物だと、ワィオンは思った。
「ムラトと申します。どちらに案内しましょうか?」
「ロッタリア都にある、他の教会を尋ねるのはどうでしょう?」
「そうですね……ロッタリア都には、ロッタリア大教会とここ以外に、二つの教会があります。残念ながら、どちらもエコノモウ大主教派で、トフィロウ府主教の味方にはなってくれません――」
「どのような様子か、見られるだけでもよろしいでのす」
「そうですか……では、【テンペ教会】に向かいましょう」
ワィオンはムラトの案内で、テンペ教会に向かった。道中、沢山の人とすれ違い、誰もワィオンたちの事を気にしなかった。ヤナは怪訝な顔をした。
「皆さん忙しそうですねー」
「ああ……村では聖職者と会うと、みんな会釈をしていたから、通り過ぎるのが不思議なんですね?」
「ええ、都会ではこういうものなのですか?」
「そうですね。ほとんどの方は、主教様以上じゃないと、会釈はしませんね。ロッタリア都には司祭以下の聖職者は、数千人います。毎回挨拶していたら大変ですから」
「はえー、ヤナは名前を覚えられる自信がありません」
テンペ教会はロッタリア都の端にある。向かっていくと、少しづつ人通りが少なくなっていった。
「これから向かうテンペ教会は、どのような状態なのでしょうか?」
「昨年まではトフィロウ派の方が主教だったのですが、今の主教に代わってからは、私どもの教会との交流もなくなりまして……」
「その主教はエコノモウ大主教に、協力的なのですね?」
「ええ――大主教に賄賂を贈り、主教になったと、もっぱらの噂ですが……正直言って、エコノモウ大主教になってからは、ほとんどの主教がそういった状態でして――」
「……利益で繋がった関りは、簡単には断ち切れないでしょうね――」
ワィオンは教会のそばまで行ったところで、粗末な小屋が沢山並んでいるのを見つけた。
「あれはなんですか?」
「あれは浮浪者の集落です。色々な事情で、まともに働けなくなった人が、あそこに集まっているのです」
「はえー、村でも賭け事で、家を失う人がいましたけど、あんなに沢山……都会はやっぱり違いますねー」
「彼らはお金がないだけでなく、病気や怪我で働けないのです……」
「なぜあそこに集まっているのですか?」
「昨年まではテンペ教会が、炊き出しを行っていたので、それで食い繋いでいたのです。しかし、今の主教は、炊き出しを取りやめてしまって、既に飢え死にした方もいるとか――」
ワィオンは教会に背を向け、浮浪者の集落へ向かった。
ワィオンは浮浪者たちに叫んだ。
「飢えた者はいるか? パンを欲しい者がいるか?」
ワィオンの声を聞いて、五人の浮浪者が集まってきた。ワィオンは持っていた一切れのパンを、五つに千切り、彼らの手のひらに乗せた。そして、ワィオンは両手を広げ、パンに向けた。
「神よ、飢えた者に救いを! 麺麭増大!」
ワィオンの両手から光が放たれ、浮浪者が持っていた一欠片のパンが、両手から溢れるほどの大きさになった。浮浪者たちは、歓声を上げて、ワィオンに感謝した。




