十二話
ワィオンはモラチ司祭を追いかけ、村に向かった。モラチを村の入り口で見つけると、慎重に尾行した。数分歩くと、モラチは赤い屋根の建物に入っていった。
ワィオンは近くに居た、村人に話しかけた。
「こんにちは。お聞きしますが、あの建物が誰の物かご存知ですか?」
「おや、聖職者さんなのに、ご存知ないのですか?」
「私は巡礼で、今日、この村に着いたばかりでして……」
「ああ、それなら知らなくて当然か。あそこは屠畜場です。神殿で乳が取れなくなった牛は、あそこで加工されるんですよ」
「肉はどうするんですか?」
「この村やラリサ市の市場で売られます。ただ、年老いた牛は味が悪いんで、人間が食べる量はそれほどありません。干物にして、神殿で供物にされるようです。牛を殺すことをホルヴァに罰せられないように、気をつけないといけませんからね」
「なるほど。ご協力いただき、ありがとうございました」
ワィオンはその場から離れて、遠巻きに屠畜場を監視した。
「ヤナ、悪いがここで、あの司祭を見張ってくれますか?」
「分かりました」
「彼が出てきたら、見つからないように後をつけて、空が赤くなったら、神殿に帰ってください」
「ワィオン様はどうするので?」
「村を調べてみます」
ワィオンは村の市場に向かった。その後、神殿に帰り、老齢の司祭たちに話しを聞いた。
夕暮れ、神殿に帰ってきた、ヤナの話しでは、司祭は数十分後に建物から出てきて、宿に向かったようだ。
トフィロウ府主教は、ワィオンたちが神殿に泊まる事を許してくれた。夕食は乳製品が多く、ワィオンはチーズやバターは今まで食べた物の中でも、一番美味しく感じた。しかし、干し肉はイマイチだった。
翌日、ワィオンは朝食を終えると、祭壇の長椅子に座っていた。ヤナは輔祭に黄金鳥の杯の説明を受けていた。祭壇の一番前に置かれるのは、現在の主教の杯だ。つまりあの杯は、トフィロウ府主教の杯だ。
ユティルダは気まずそうに、ワィオンに話しかけた。
「どうする? ロッタリア都へ向かうか?」
「……そうですね、今日中に向かうのがいいとは思いますが――」
ワィオンは、神殿の入り口から運ばれてきた、荷物に目を向けた。ユティルダが言った。
「あれは牛肉だ。ここでは乳が出なくなった牛は、魂が抜けた牛、として扱われている。魂はホルヴァの元にあるので、殺しても構わない、そういった理屈だ」
「理屈が通るか、通らないか……そればかりですね」
「――」
ユティルダは自分が非難されたような気がして、黙ってしまった。ワィオンも黙って悪を討つ方法を思案していた。
(時間をかけると、エコノモウ大主教に警戒されるかもしれない。荒っぽいやり方だが、通らぬ理屈で詰めるしかないか――)
少ししてモラチ司祭が、御者を連れて現れた。
「トフィロウ府主教、用意は終わっていますか?」
「はい。こちらが私どもがお渡しできる、牛肉です」
モラチは口元を緩ませた。
「では、規則なので調べさせてもらいます――鑑定、ここにある肉が牛肉か答えよ!」
モラチが定奇跡を唱えると、荷物は青い光を放った。ただ、一つの荷物だけが、赤い光を放った。
「むっ!? これはどういうことだ! 牛肉以外が紛れ込んでいるぞ!」
「そんなはずは……」
モラチは赤い光を放った荷物を確認した。
「なっ!? これは馬肉だ」
「ええっ!?」
モラチの言葉に周囲は騒めいた。ジノ教では、馬は神聖な動物とされ、神殿でも、ロバが重要な労働力として、大切に飼われていた。
「トフィロウ府主教! 牛を渡したくないからと、代わりに馬を渡すとは許せません!」
「いいえ! 私どもにはなんのことか――」
トフィロウ府主教は、ユティルダがレイピアに手をかけている事に気づき、慌てて止めた。
「これは貴女の責任です! 査問会にかけなければなりませんね」
神殿に重たい沈黙が漂う。
「モラチ司祭、よろしいでしょうか?」
沈黙を破ったのは、ワィオンだった。
「……輔祭ごときが口を出すことではない!」
「昨日、私が村で話しを聞いたところ、モラチ司祭はロバを連れて、村を訪れたとか――」
「!!」
「そのロバは今、どちらに?」
「貴様が知ることではない!」
「貴方は自分のロバを人に譲り、屠畜場へ送らせましたね?」
「貴様……私を罪人呼ばわりするか!!」
「……貴方は屠畜場で、牛の肉にロバの肉を、紛れこませました――」
「天罰! 背教な者への罰! 偽りの糾弾をした罪!」
モラチとワィオンの間に白い雲が現れた。
「ふんっ!! 私はロバ肉など触れていない! 私が荷物に紛れこませたなど、あり得ぬことだ!」
ワィオンは右手を上げた。
「神とホルヴァ、どちらが慈悲深いか――免罪符!」
ワィオンが指をパチンと弾くと、雲から放たれた光がモラチを貫いた。
「そんな!? 私は偽りは言ってない!! なぜだ神よ!?」
モラチの神成の証が真っ黒になった。
「ああっ! 光が、光が!? 光が消えた!!」
雲と光が消えた。モラチは床に崩れ、頭を抱えている。
「見えない……何も見えない……エコノモウ大主教、お助けください――」
モラチは罰として、失命してしまった。ホルヴァは彼の眼を奪ったのだ。




