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十話


「早朝から熱心ですな」

 ワィオンに声をかけて来たのは、主教だった。

「長年の日課なので、やらないと落ち着きません」

「感心感心、最近の若い教徒はあまり神に祈らなくなりました」

 主教はワィオンの横で神に祈りを捧げた。

「ジノ教徒が減ったようには感じませんが?」

「信仰の在り方が変わったのです。実利主義に変わったというか……お連れの方が所属する神聖隊も、本来は備えの力でした。今では国を統治する力になろうとしています」

「彼女に我欲はありませんよ。ただ、ジノ教徒の平和を守る、その役目を果たそうとしているだけです」

「平和の守り方も考える必要があります。今の大主教は、信仰の形を縛りすぎています。トフィロウ府主教も、大変難儀しているようです」

「……トフィロウ府主教の何が問題視されているのですか?」

「トフィロウ府主教はアグラニケ神殿をホルヴァへの祈りの場と考え、ホルヴァに聖歌を歌う事を大切にしています。それがエコノモウ大主教には気に食わないのです」

「……六躯の干渉(かんしょう)力ですか?」

「ええ。六躯は信仰に対して恩恵を与えます。足躯コウテルは豊潤(ほうじゅん)を与えてくれるので、ロッタリアではコウテルへの信仰が盛んです。眼躯ホルヴァへの信仰はコウテルの影響力を下げると、エコノモウ大主教が批判しているのです」

「それは極端な話ですね。六躯の力は全て神の力の一部、一つとして欠けていいものではないのですが――」

「信仰の在り方だけなら、まだいいのですが、今、問題になっているのは牛の扱い方でして……」

「牛はホルヴァの愛する動物と言われています。そのためにアグラニケでは、牧場で多数の牛を飼育しているとか」

「その牛を出荷するべきと、エコノモウ大主教は主張しているのです」

「出荷ですか!? それは驚きですね」

「昨年の熱波で南のハルキディキの牧草地が被害を受け、ハルキディキの市場の牛肉が大幅に減っているのです。アグラニケは老廃牛の牛肉を、市場に出していますが、それは大した量ではありません。若い牛を飢える者への救済として市場に出せば、大儲けできるというわけです」

「しかし、アグラニケの乳製品も大切な収入源では?」

「……問題は金がアグラニケに入るか、エコノモウ大主教に入るかです。大主教は救済のために南の市場に出すから、牛を渡せとアグラニケ神殿に迫っているのです」

「それは酷い……他の主教たちは批判しないのですか?」

「……エコノモウ大主教が自分にとって都合のいい人物を、主教に任命しているのです。私はエコノモウ大主教の前から、ここの主教でしたから、トフィロウ府主教を応援しています」

 (マクリチが村の主教に任命されたのも、エコノモウ大主教にとって都合のいい人物だったからか――)

 

 ワィオンたちは朝食を終えると、アグラニケ神殿に向かった。天候には恵まれ、正午にはアグラニケに辿り着いた。

 家の数はワィオンの村と、変わらぬほどだ。遠くには牛がちらほらと見える。

「ラリサ県はロッタリア地方第二の都市で、街並みは栄えている。だが、アグラニケは、ラリサ県の中心部から外れているので、周囲は静かな牧草地だ」

「村では牛は貴重でしたが、ここでは牛乳が飲み放題ですね」

「ああ。アグラニケ神殿に行けば、毎日コップ一杯の牛乳を、いただけるぞ」

「それはありがたいですね。といってもここの住民は、牧場で働いてるのではないでしょうか?」

「それは違うぞ。アグラニケではジノ教以外が牛を飼うのを禁じているんだ。牛の世話から、搾乳まで、全部アグラニケ神殿の者がやるんだ」

「そうだったんですね……それではアグラニケ神殿にとって、牛はとても大切な存在ですね」

「ああ――理解のある者もいれば、無い者もいる……」

「うぅー、またユティルダさんが分からないこと言ってます……」

 

 ユティルダを先頭にして、牧草地を進む。道中ではたびたび聖職者を見かけた。牛の様子を確認しているようだった。道に従って、小さな丘を登ると、盆地にアグラニケ神殿が見えた。

「あれがアグラニケ神殿ですか」

「はえー、大きいですね。あんな大きな建物初めて見ました」

「アグラニケ神殿はジノワィオチの威光を知らしめるためのものだ。最初は小さな神殿だったが、その後四十年間、寄付で少しずつ増築され、現在の形になった」

「……ワィオン様、神殿に入る前に、【アグラニケの躰下ろし】の話しを、もう一度聞かせてもらっていいですか?」

「ああ。ジノワィオチ様が、悪魔を封じてから、この地の人々の生活を支えていた時、ここで凶暴な赤い雄牛の群れが人々を襲い始めた。ジノワィオチ様は人を助けるために、牛たちを殺した。だが、その雄牛は眼躯ホルヴァが目をかけていた牛だった。ホルヴァはジノワィオチ様を罰するために、天から雨に乗って、地に降りてきた。ジノワィオチ様はホルヴァと戦い、ホルヴァの左眼を傷つけた。ホルヴァは罰することを諦め、天に帰った――この逸話はジノワィオチ様が六躯を超え、神に等しい力を持つ根拠として、語られ続けています」

「ホルヴァはどの位、強いんでしょうか?」

「神聖隊全員合わせても勝てないだろうな」

「ジノワィオチ様が特別なのです。何故なら、その一件が理由で、神は人間に授ける力を大きく制限してしまいましたから」

 (天は、免罪符(アフェシス)はジノワィオチ様の力の一つだと仰られた。このような力をいくつも持っていれば、悪魔や六躯にも勝てるのだろう――)


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