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「自分を磨け」と言ったのはあなたです  作者: 伊賀海栗


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第7話 婚約者と従妹


 翌日。私は植物事典を手に窓から自宅の庭を眺めていました。

 次は何を植えようかなと考えていただけなのですが、私の視線は今朝干されたであろう洗濯物に釘付けとなっています。


 庭の片隅で風に揺れているのは魔術師団の制服。ローブは昨日のうちにお返ししたけれど、制服はそうもいきませんから。


 洗濯物を見るともなしに見ながら昨日のことを振り返っていたのです。久しぶりに楽しいと思えた日だったなぁと。

 植物を意図通りに動かせるらしいとわかったことはもちろんですが、人目を避けて木陰に隠れた際のジュスト様といったら!


「まさか間男のような振る舞いをすることがあろうとは。青天の霹靂です」


 と、目をぱちくりさせるのが本当に可笑しくて。

 あんなお顔もなさるんだなぁとか、この方も狼狽えることがあるんだとか意外な一面を見られたのがとても新鮮でした。


 ……などと思い出して頬が緩みかけたところで、屋敷の従者が来客を告げました。ティーノ様とナタリアが訪ねて来たようです。お約束はなかったはずですが……。



 応接室へ向かうとおふたりは仲良く並んで座っていました。

 それはいいのですけど、やはりちょっと距離が近いように感じられます。って、今に始まったことではないですね。


「お姉さま、突然のご訪問ごめんなさい」

「いいのよ。それで、ティーノ様もご一緒とはどうかなさいましたか?」

「いや」


 簡単に挨拶を済ませ、おふたりの対面に座るとティーノ様はそっぽを向いてしまいました。何しに来たのかくらいは言ってほしいものです。


 ナタリアは扇を広げて顔の下半分を隠し、悲しそうな瞳で首を傾げます。


「あの、お怪我は大丈夫でしたか? あたし心配で」

「怪我……。あっ、昨日のね? 治癒魔法で治していただいたから大丈夫、傷跡ひとつなくてよ」


 まさか心配されるとは思わなくて驚きましたが、袖口を少しだけめくって腕に傷がないことをアピールしておきます。

 しかしその手首にはくっきりと、ティーノ様の握った痕が痣となって残っていたのです。


「お姉さま、その痣」

「あ、あー。魔術師さんも気づかなかったのかも。トゲの傷の方が酷かったから――あ、いえ、そちらも大したことはなかったのだけど」


 慌てて袖を直し、手を膝の上に戻します。

 あまり痣や傷のことを言ってもティーノ様を責めるように聞こえてしまいますから。……と思ったのですが、ちょっとフォローが足りなかったようです。


 ティーノ様はお顔を真っ赤にして拳を握りました。


「ぼ、僕が悪いとでも言うのか!」

「いいえ、そんなことは」

「僕は君を助けてやったんだ! 大したことないくせに、これ見よがしに見せつけてどういうつもりだ!」

「はい。ティーノ様が助けてくださって嬉しかったです」


 あの時ティーノ様が私を助けようとしてくれたことは事実で、その気持ちはありがたいと思っていますし、この言葉は本来なら嘘ではないのです。


 けれど、彼をなだめるためだけに出てきた言葉はどうしても空虚に感じられて。ああ、この先の人生もずっとこの調子なのかしらなんて溜め息が出そう。


 まだ何か文句を言おうとするティーノ様に被せるように、ナタリアが少し大きな声をあげました。


「ティーノ様ったら、叫び声が聞こえたときに絶対お姉さまの声だって言って走って行かれたのですわ。そして本当にお姉さまがいらしたから、あたし驚いてしまって。さすがですわ!」

「こっ、この僕が近しい人間の声をわからないはずがないだろう」


 なんとティーノ様の戦意が一気に落ち着いたのです。ナタリア、すごいわ。

 フンと鼻を鳴らしたティーノ様を横目に、ナタリアは居住まいを正して私に胸を張って見せます。


「お姉さま、これ御覧になって。希少なピンクダイヤモンドよ」

「まぁ素敵ね」


 彼女の胸元にはキラキラ輝くピンク色の宝石があり、細い指がそれを指していました。

 ふわふわのピンクブロンドとよく合う素敵なネックレスだと思います。


「ティーノ様に買って頂いたのですわ!」

「そうなの」


 そういえば昨日、おふたりは首飾りが届くとかなんとか、そんな話をしていたような。確か、「ナティの欲しがっていた首飾り」でしたっけ。ナティって。


 チラっとティーノ様を見上げると、彼とばっちり視線がぶつかってしまいました。一瞬だけばつの悪そうな表情を浮かべたものの、すぐにぎゅっと眉を寄せていつもの難しいお顔に。


「ナ……ナタリアはオリエッタと違って宝石の良し悪しを解するからな」

「そうですか」

「良い品はその価値がわかる者が持つべきなんだ」

「ええ、そう思います」


 だからといって、婚約者を差し置いて「友人」に贈るものでもないでしょうに。


 ――全ての男性がティーノ殿と同じ考えを持っているわけではない。

 ――ご自身を大切に。


 ジュスト様の言葉が思い出されます。そうね、きっとこのままではいけないのでしょう。未来を変えるために、自分の人生をより良くするために、何か動くべきなのに。どうすればいいのかはわからないままです。



 婚約者と従妹のイチャイチャを目の前で見せられること1時間。

 やっとふたりが帰ることとなって席を立つと、ナタリアが私の耳元に口を寄せました。


「お姉さま。今度、オルトラ伯爵をご紹介いただけないかしら」

「えっ?」

「いつまでもお姉さまの婚約者に頼るわけにはいきませんもの。あたしもお友達を増やさなくっちゃ。……ね?」

「機会があれば、ね」


 なんだか胃のあたりがムカムカします。

 ティーノ様とナタリアを見送って、私は長い長い息を吐き出したのでした。




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嫉妬キターーー!!!!(大歓喜)
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