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「自分を磨け」と言ったのはあなたです  作者: 伊賀海栗


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3/6

第3話 想定外の大失敗①

本日3/3回目の更新です。


 一夜明けて私は城のお庭へやって来ました。


 フィオレ殿下がお貸しくださったのは広いお庭の隅っこで、あまり人目につかない場所です。

 王城を背に前方を見れば広大なバラ園がありますが、ここは言わばバラ園の裏側。基本的にこちらには、図書室に用事のある人、あるいは静かに過ごしたい人くらいしか来ません。


 ()()するのにこれほど丁度良い場所もないと思うので、本当にありがたいわ。

 空は青く澄んで、穏やかな日差しに心なしか秋の気配を感じます。じっとしているとじんわり汗をかくような気温ですけどね。


「さて……やりますか」


 目の前にはバラ園とこちら側とを隔てる柵と、小さな門があります。柵の高さは私の胸くらいまでしかありません。

 私はこの柵および門をバラで飾りたいのです。だって、裏口ではあるけれどせっかくバラ園に続いているんですもの、こちらも綺麗にしたいわ。


 そこで城の庭師に譲ってもらったのが、つるバラの苗です。今は植え付けの季節じゃないよ、なんて庭師のおじさんは言っていましたが……私には関係ありません。

 なぜなら私には、豊穣の「ギフト」があるから。


 柵のそばの土に手をかざし、魔力を注ぎます。すると土がぽこぽこと動いてまるで耕したかのように柔らかくなりました。

 苗を植えるための穴が欲しいと願えば、ひとりでにちょうどいい大きさの穴ができるという便利さ。これも豊穣のギフトの能力のひとつです。


 ギフトとは魔法の一種ではあるものの、火や水などの属性に縛られない特殊な能力を言います。

 一般的な属性魔法との大きな違いは、訓練によって使えるようになるのではなく、生まれ持った才に依存すること、でしょうか。


 動物に好かれるとか、しなった板をまっすぐにできるとか、使い道が限定――あるいは使い道がないことも――されるものから、予知能力や失せ物探しのような有用なものまで、多種多様だそう。

 嘘かまことか、ギフトは神のきまぐれで付与されると言われていて、保有者はあまり多くありません。



 ギフトの有無は神殿で確認できます。神殿は国に対し、国内にどのような能力者がいるかの報告はしますが、特定個人の開示まではしないこととなっています。理由は……過去に凄惨な事件があったから。


 その能力を欲しがる人、あるいは恐れる人が突飛な行動に出てしまうのを防ぐためです。逆に能力者が悪事を働くことも多々ありますが、そういった捜査の場合には情報が開示されます。


 しっかり調べれば魔力痕が見つかりますので、大胆な悪事にはそうそうギフトを利用できない……と私は思うのだけど、使う人は後を絶ちません。人心ってわからないものですね。


「あとは上手に誘引できるかどうか、ね」


 トゲ避けの分厚い革の手袋を嵌めて苗を穴へそっと置き、土を被せます。

 主幹を柵にしっかり留めるところまでは一般的な方法と言えましょうか。そこから普通は不要な枝を切り、残した枝を構造物へ固定する……つるを思う方向へ導くのを誘引と呼ぶそうです。が。


 私はバラに触れ、再び魔力を注ぎました。思い描くのはバラが美しく咲き誇る柵と門の姿。

 イメージに応えるように、バラはシュルシュルと枝を伸ばしていきます。ただ、柵まで一直線には伸びていかず、枝先が右往左往している様はもしかして私の技術不足かしら。


 練習が必要ですね。それに豊穣のギフトに関してまだまだ知識が不足しているせいで――。


「猫ちゃん!」


 私の足元を黒い毛玉が駆け抜けました。

 縦横無尽に踊る枝の先端が気になるのか、ぴょんぴょん跳ねては枝先にパンチを繰り出して。


「危ないわ、トゲがあるしそれに」


 枝がどう動くのか私自身でもしっかりコントロールできていないのだから!


 右手でバラに触れながら、左手を猫ちゃんのほうへ。こちらに興味を持ってくれればいいのだけど。

 しかし、私の頭の中が猫ちゃんでいっぱいになってしまったせいでしょうか、暴れまわっていた枝が一斉に猫ちゃんのほうへと向かっていってしまったのです。


「だめ――きゃあぁっ!」


 もう混乱してしまって、とにかく猫ちゃんを助けなくちゃ、とそう思ったのですが。

 次の瞬間、一気に伸びた枝に絡めとられたのは私の身体のほうでした。両足と腰と腕とに枝がくるくるっと巻き付いてしまったのです。こうなってはもう身動きがとれません。


「なんでぇ……?」

「みゃー」


 黒い毛玉は私を見上げて首を傾げたかと思えば、前傾になって丸い目でこちらを窺います。遊んでるわけじゃないので、お仲間には入れてあげられないんですけども。


 私が慌てているせいもあってか、枝に魔力を注ぎながら解放するよう指示をしても、枝は全く動きません。気に入られてしまったかもしれない。

 途方に暮れる私の耳に、複数の足音が聞こえてきました。


「オリエッタの声だった」

「そんな、気のせいではありませんか?」

「いいや、間違いない。あの腑抜けた声は――オリエッタ! 何をしているんだ、君は?」


 やって来たのはティーノ様とナタリアです。


 ティーノ様はお父上様のもとで政治のお勉強をなさっているとのことですから、城にいるのは当然ですが……まさかナタリアも一緒とは。

 いえ、それよりこの状況でおふたりにお会いするだなんて、恥ずかしい……。


「ティーノ様、ナタリア。ご、ごきげんよう。気持ちのいい青空で――」

「本当に気持ちがいいと思うなら、まったくめでたい頭だ」

「あの、できたら庭師を呼んでいただけると」


 植物に触れれば汚れますし、特にバラはトゲがあります。ティーノ様やナタリアに助けていただくわけにはいきません。まぁ、彼らは枝に触れようとも思わないでしょうけれど。

 庭師であれば適切な対応をとってくれるだろうと思ったのですが……。ティーノ様は予想に反して私の手を握りました。


「えっ」

「まったく、なんで僕がこんなことを……!」


 私が何か言うよりも早く、ティーノ様が私の腕を強く引っ張ったのです。

 トゲが引っ掛かったのでしょうか、どこかでピッと布を裂く音が聞こえました。




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― 新着の感想 ―
おお!? 意外なことしてくれるじゃないですか! 何事なんでしょ!?
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