第11話 平和な一日②
お兄様の提案で食べ歩きを挟みながら買い物をすることになりました。
ここは交通の要衝というだけあって、各地の名産品が集まっている印象です。チーズたっぷりのパニーニや、レモンソースで和えた茹でタコ、それにリゾットボールを揚げたもの。他にもたくさんたくさん食べました。
3人で分けているからひとつひとつは少量ですが、あれもこれもと欲張ったおかげですっかり満腹に。
「オレは断然マンドラゴラ入りコロッケを推すね。芋のホクホクに混じる弾力と滋味が最高だ」
「私はパニーニ」
「ほーん? どこで食っても間違いようのない安心のお味。お子様は冒険せず実家に引きこもっていたいってわけか」
「そうね、お兄様にあの繊細なチーズの味わいがおわかりになるはずなかったわ」
お兄様はたまにこうして煩わしい絡み方をしてきます。私もついつい可愛げのない返答をしてしまうのですが、お兄様が悪いと思います。
なんとなく視線を感じて兄の隣を見ると、ジュスト様がパチパチと多めに瞬きをしていました。
「オリエッタ嬢はアンドレアと一緒だと、そんな顔もするんですね」
「おかしな顔をしてましたか」
「そりゃあもう生意気な顔だ。敬うべき兄にする顔とは言えないねぇ」
「いえ。決して悪い意味ではなく。ですが、すみません。それを表現する言葉が思いつかない」
今度は私が瞬きを重ねる番でした。言葉が見つからないなんて、ジュスト様には珍しいことです。
結局私は一体どんな顔をしていたのかしら。首を傾げる私の横で、お兄様がピュゥと口笛を鳴らしました。まったく品がないんだから。
お腹がいっぱいになると、今度は甘いものが欲しくなるもので。
疲労も感じ始めたところだったので、目的のお買い物の前にジュスト様がおすすめする喫茶店へ立ち寄ることとなりました。
席につくなりジュスト様はメニューを広げ、上段に記載された商品を指し示します。ティラミスセットと書いてあるようですが。
「ここのティラミスは一風変わっています。双頭ロフタンの乳で作ったマスカルポーネを使っていて……」
「双頭ロフタンって、魔物ですよね」
頭部をふたつ持つ羊型の魔物だったはずです。
頭突きによる攻撃もさることながら、最も恐ろしいのは魔法。一方が石化の魔法を使い、一方は混乱の魔法を使う……というのはお兄様の受け売りで。
「はい。ですがこちらの領地では家畜化されています」
「ミルクは栄養豊富だし肉は意外にも柔らかい上に臭みもない。角は薬の材料になるってんで、夢のような家畜だぜ」
「へぇ」
お兄様が語り始めました。しばらく止まらないかもしれません。
というのを知っている私とジュスト様は、お兄様に好きに喋らせたままティラミスのセットを3つオーダーします。
お隣の席の女性たちは先ほどからチラチラと横目でこちらを見ていますが……その気持ちはよーくわかります。
だってジュスト様は当たり前のように麗しいですし、お兄様も一般的には美男と呼ばれる類のお顔だそうなので。魔物オタクですけど。
「――で、この領地は難しい家畜化を成功させたってわけだが、その数を増やすのがまた難しい。おかげで他の領に――」
予想通り止まらなくなったお兄様の口上の合間に、隣の席の会話が聞こえてきました。
「やっぱり貴族よね? あの服だし、所作も綺麗だもの」
「ほら、オルトラの新しい領主様じゃない? オルトラって英雄様に下賜されたのでしょう?」
「あー! そういえばヒッポグリフで戻ってらしたって靴磨きの子が言ってた」
靴磨きの少年が情報通なのは王都も地方も同じなのですね。でもまさか昨日のことがもう隣領にまで知れ渡っているだなんて。
ジュスト様はこういった噂話には慣れっこなのか、気にした様子もなく兄の話に相槌を打っています。
「……でもさすが英雄様よね」
「ね。あの身長にあの筋肉。腕なんて両手で掴んでも足りないんじゃない?」
「素敵だわ。隣のご令嬢がちんまり見えちゃう」
ん。
もしかしてこれはお兄様とジュスト様を間違えているのでは。
ジュスト様は背も高いし筋肉だってあります。でもそれは一般男性に比べればという話であって……目を見張るほど体がごついのは兄のほうなのです。
「英雄と呼ばれるのはくすぐったかったので、アンドレアに代わってもらえると助かります」
こそっと私の耳元で囁いたジュスト様。なんて控えめな方なのかしら。私だったら「我こそが英雄ぞ」って言いに行ってしまいそうなのに。
一方お兄様は、ティラミスが運ばれてきたところでやっと喋るのをやめたのでした。
「それで明日の予定なのですけど」
ティーポットでお茶を蒸らす間、ティラミスもおあずけです。
早く食べたくてそわそわする気持ちを紛らわせるため、予定の確認をしたかったのですが。お兄様もジュスト様も目を丸くしてこちらを見ました。
「一応言っておくと、オリーは留守番だ」
「えっ」
「魔物が跋扈するとこに行くって言ってんだ。連れては行けないねぇ」
「はい。領地の現状を確認するだけですから、我々ふたりだけのほうが速やかに完了できます。ですのでオリエッタ嬢は――」
なんてこと!
おふたりは私を置いてきぼりにするつもりだったみたいです。
「私が行かずに誰が植物の状態まで確認するんです? お兄様、それともジュスト様? おふたりは草原の復活が可能か否かまでおわかりになるの?」
私がそう口答えすると、おふたりは少したじろいでから渋々帯同を許可してくださいました。
英雄で王国筆頭魔術師のジュスト様と、王国騎士団の中でも精鋭ぞろいと言われる銀竜騎士団の団長を務めるお兄様。おふたりが揃っているのだから、私がよほどのヘマをしない限り大丈夫……だと思いますので!




