運ぶという進歩
かおりは、倉庫の奥で腕を組んでいた。
視線の先には、古紙回収品として集めてきた本の山がある。
「やっぱり……次も農業関係よね」
呟きながら、紐でまとめられた一冊を引き抜いた。表紙は色褪せ、文字もかすれているが、内容は確かだ。
農業の歴史。
鍬や鋤の変遷、収穫物の扱い方、運搬の工夫。
「昔の人って、ほんとよく考えてる」
ぱらぱらとページをめくりながら、かおりは感心する。今まで見てきた改良の多くは、決して派手な発明ではない。少し形を変えただけ。持ち方を工夫しただけ。
それでも、作業は確実に楽になっている。
「……これなら、いける」
視線が止まったのは、籠と運搬具の項目だった。
「運ぶ、か」
耕す。植える。収穫する。
その後に必ず発生するのが、“運ぶ”作業だ。
「ここ、地味だけど……一番負担が大きいのよね」
かおりは、自分の知っている現代の道具を思い浮かべる。背負いやすい形。重さが分散される構造。持ち替えなくてもいい工夫。
「魔法も使わない。特殊な素材もいらない」
木と紐、少しの金具。それだけで出来る改良。
「過激じゃない。支配にもならない」
小さく頷く。
「これでいいんだ」
作業台に紙を広げ、さっと図を描き始める。
籠の縁を少し高くする。持ち手を二段にする。背中に当たる部分を平らにする。
「うん……運ぶことに集中させよう」
これなら、誰でも使える。
力の弱い人でも、年配の人でも。
作業の流れを壊さず、ただ“楽になる”。
「便利すぎない。でも、確実に違う」
かおりは、ペンを置いて息を吐いた。
「よし。まずは、私が作る」
試作は、いつも通り自分から。
使ってもらい、聞いて、直す。
それを繰り返してから、リーナへ。
「……静かに、前へ」
籠と運搬具。目立たないけれど、確実な進歩。
かおりは、そういう道具が好きだった。




