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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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巡り始める道具たち

道具が広がるのは、思っていた以上に早かった。


畑に、倉庫に、作業場に。

気づけば、あの新しい道具は領内のあちこちで使われていた。


「これ、一日使っても腕が楽だな」


「前より、終わるのが早い」


そんな声が自然と行き交う。

誰かが広めたわけでも、命令したわけでもない。使いやすいものは、勝手に残る――ただそれだけだった。


そして、もう一つの変化が起きていた。


「……これ、要らなくなったな」


今まで使っていた古い道具。柄が細すぎたり、重心が悪かったり、長時間の作業には向かないものたち。


それらが、次々と商人の元へ集まっていった。



「ふむ……」


倉庫に並べられた、古い農具の山を前に、リーナは腕を組んだ。

錆びはあるが、折れているものは少ない。

刃も、手を入れればまだ使える。


「捨てるには、惜しいわね」


そう言って、職人たちを呼び集めた。


「形は古いけれど、素材は悪くない。この部分を削って、ここを直せば――」


職人たちは目を輝かせる。


「なるほど……」


「これは、まだ生きますな」


命じたのは、廃棄ではなく改良だった。

柄を太くする。角度を変える。重心を調整する。

新しい道具ほどではないが、以前よりはずっと使いやすくなる。


「領内では、もう十分行き渡った」


リーナは淡々と告げる。


「だから、これは外へ」



改良を終えた道具は、外から来た商人たちに並べられた。


「中古……いや、改良品か?」


「試していいか?」


実際に手に取った商人たちは、首を傾げ、そして頷く。


「悪くない」


「この値段なら、十分売れる」


新品ほど高くない。それでも、使い勝手は確実に向上している。


「この領地、最近妙に“便利な物”が増えたな」


そんな声が、ぽつぽつと聞こえ始めた。



執務室で報告を聞いたかおりは、小さく笑った。


「捨てないで、回す……か」


「ええ」


リーナは頷く。


「道具は、使われてこそ価値がある。役目を終えた、なんて決めるのは早すぎるわ」


改良された道具が売れれば、また商人は来る。

次は、新しい道具目当てかもしれないし、別の便利な物を探しに来るかもしれない。


「少しずつでいいの」


リーナは、静かに言った。


「“ここに来れば、何かある”。そう思ってもらえれば」


派手な交易ではない。

けれど、確実に“売る物”は増えていた。


かおりは窓の外、行き交う人々を眺めながら思う。


道具が巡る。人が巡る。お金が、ゆっくりと巡り始める。


この領地は、もう止まらない。


静かに、しかし確実に。

自分たちの手で、次の段階へ進んでいくのだった。

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