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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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形にするという決断

道具を使ってもらい、改良を重ねて、数日。


「……こんなところかな」


かおりは作業台の前で、三本の道具を見比べた。刃の角度、柄の太さ、重心の位置。

何度も削って、削り直して、手に取っては振ってみる。


完璧、とは言えない。けれど――


「少なくとも、無理はない」


使った人たちの声は、徐々に揃ってきていた。

最初は違和感だった部分も、改良を重ねるごとに消えていく。


「腰が楽になった」


「長時間でも手が痺れにくい」


「前より作業が早く終わる」


劇的な変化ではない。

それでも確実に、日々の負担は減っていた。


「よし……」


かおりは道具を布で包み、箱に納める。

向かう先は、リーナの執務室だった。



机の上に並べられた、三種類の道具。


「こちらは、力のある人向け」


「こちらは、女性でも扱いやすい形にしています」


「それから……」


最後の一本を、そっと差し出す。


「お年寄りでも、無理が出にくい仕様です」


柄は少し短く、握りは太め。

重心は手元寄りで、刃の入りも浅い。


リーナは一つずつ手に取り、重さを確かめ、何度か振ってみた。表情は真剣そのものだった。


「……なるほど」


短く、けれどはっきりと頷く。


「これは“楽をする道具”ね」


「はい」


かおりは即答した。


「頑張らなくて済むための、道具です」


リーナは少し考え込むように視線を落とし、それから顔を上げた。


「商品化しましょう」


即断だった。


「まずは領内で普及させる。価格は抑えるわ。誰でも手に取れるように」


かおりは、ほっと息をついた。


「鍛冶士と木工士には、こちらから話を通す。形は変えない。改良は、こちらで管理する」


「……いいんですか?」


「いいの」


リーナは、静かに笑った。


「これは“新しい技術”じゃない。でも、“新しい基準”になる」



数日後。


領内の農具小屋に、見慣れない道具が並び始めた。噂はすぐに広がる。


「楽らしい」


「使いやすい」


「誰でも扱える」


最初は半信半疑だった人たちも、手に取ると表情を変えた。


「……悪くないな」


「前より、続けられそうだ」


そして、領内を訪れた商人たちが、それに目を留める。


「これは、売り物か?」


「ええ。まずは、この領地から」


リーナは、焦らない。


一気に広げない。押し付けない。


使われ、慣れ、当たり前になるまで待つ。



夕方。


畑を眺めながら、かおりは小さく息を吐いた。


「少しずつ、だね」


派手さはない。革命でもない。


それでも、この道具が広がれば――


「誰かが、少し楽になる」


それだけで、十分だった。


かおりは、次に改良すべき点を頭の中で整理しながら、ゆっくりと歩き出した。

この変化は、もう止まらない。


静かに、確実に。

領地の“当たり前”へと、溶け込んでいくのだった。

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