静かな検証
完成した道具を、三人に手渡した。
「これ、使ってみてください」
渡した相手は、それぞれ違う立場の人だ。
毎日畑に出る人。体力には自信があるけれど腰を気にしている人。経験は浅いが真面目に作業している人。
「今日一日、いつも通り使ってもらえれば大丈夫です」
特別な説明はしない。使い方を限定しない。
「変だと思ったら、無理しないでくださいね。終わったら、感想を聞かせてほしいだけなので」
三人は道具を手に取り、重さを確かめるように振ってみたり、柄を握り直したりしていた。
「見た目は、普通だな」
「……軽い?」
「刃の角度が、ちょっと違う?」
その反応に、かおりは内心で小さく頷く。
「それで、いい」
目立たない。驚かせない。でも、気づく人には違いがわかる。
作業が始まる。
かおりは少し離れた場所から、黙って様子を見ていた。声をかけない。手を出さない。
土に刃が入る音。返る土の量。振り下ろした後の動き。
「……うん」
劇的な変化はない。けれど、ほんの少し、動きが滑らかだ。腰を伸ばす回数が減っている。息を整える間隔が長い。
「ちゃんと、効いてる」
魔法は使っていない。補助もない。刃の形。重心の位置。柄の太さと長さ。
それだけで、人の負担は変わる。
昼過ぎ。
一人目が声をかけてきた。
「なあ、これ」
「はい」
「悪くない。……いや、正直に言うと、楽だ」
言葉を選びながら、続ける。
「力が要らないってほどじゃない。でも、余計な力を使わなくて済む」
「ありがとうございます」
かおりは、すぐにメモを取る。
二人目は、少し困った顔だった。
「使えるけど、午後になると手のひらが疲れるな」
「どの辺りですか?」
「ここ。持ち替える時に」
それも、書き留める。
三人目は、少し興奮気味だった。
「前より、土を返すのが安定する気がします」
「でも、慣れるまでちょっと時間が要りそうです」
「それも大事な意見ですね」
かおりは、全部を肯定した。
良いも、悪いも。全部が材料だ。
夕方。
道具は、一度回収しない。そのまま使ってもらう。
「今日だけじゃ、わからないですから」
「数日使って、また教えてください」
三人は頷き、道具を抱えて帰っていった。
一人になった倉庫で、かおりは椅子に腰を下ろす。
「……簡単、ではなかったな」
作るだけなら、もっと楽な方法はいくらでもあった。魔法を使えば、一瞬だ。便利さだけなら、いくらでも盛れる。
「でも、それはしない」
この道具は、奇跡じゃない。革命でもない。
「ただ、少し楽になるだけ」
それでいい。この領地に広がったとき。誰かがいなくなっても。かおりが手を出さなくても。
「残るもの」
それでなければ、意味がない。かおりは、次の改良案を書き始めた。まだ、急がない。今は、様子を見る。
静かに。慎重に。
この一歩が、この土地の当たり前になるかどうか。
それを見届ける段階だった。




