最初の使用者
倉庫へ戻りながら、かおりは頭の中で手順を組み立てていた。
「……よし」
立ち止まり、小さく頷く。
「まずは三つ」
大量生産はしない。最初から広げない。
「私が、三個分だけ作る」
同じ形、同じ重さ、同じ調整。余計な個体差は出さない。
「それを、実際の作業者さんに渡す」
選ぶのは、年齢も体格も違う三人。慣れている人、腰に不安がある人、力のある人。
「使ってもらって……」
かおりは、メモ帳を取り出した。
「良かった点、疲れた所、違和感、前の鍬との違いを全部、聞く」
評価ではなく、感想。出来・不出来ではなく、使い心地。
「それを元に、もう一回作り直す」
刃の角度を変えるかもしれない。柄の長さを数指分短くするかもしれない。握りの溝を増やすかもしれない。
「修正した二案目を、まとめる」
かおりは、はっきりと口に出した。
「それを、リーナに報告」
使った人数。出た意見。改良点。想定される問題。
「そこまで行って、初めて――」
視線が、鍛冶場と木工所の方へ向く。
「量産化」
一気には作らない。段階的に。
「鍛冶士さんには、刃の形と材質」
「木工士さんには、柄の長さと加工」
それぞれに、理由付きで渡す。
「『こうしてほしい』じゃなくて」
「『ここが、こうだった』って」
そうすれば、職人も納得できる。理解した上で作れば、品質も安定する。
「……うん」
かおりは、深く息を吸った。
「これなら、急がない。これなら、置いていかれない」
便利さを押し付けない。成果だけを誇らない。
「ちゃんと、人の声から始める」
その方法なら――この領地のやり方として、きっと根付く。
倉庫の扉を開けながら、かおりは小さく笑った。
「まずは三個。全部は、そこからだね」
静かに。でも、確実に。
次の一歩が、決まった瞬間だった。




