表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/154

小さな改良、大きな確認

木の匂いと、金属の乾いた音。

かおりは倉庫の片隅で、最後の調整をしていた。出来上がったそれは、見た目だけなら大したものではない。


「……鍬、だけど」


柄が少し長い。刃の角度が、ほんのわずかに違う。握る位置には、滑り止め代わりの溝。


派手さは、ない。魔法も、ない。


「でも……これでいい」


“便利すぎない”。“変わりすぎない”。

その条件を、ちゃんと満たしている。



かおりは、その器具を抱えて歩き出した。

向かう先は、リーナの執務スペース。


「失礼します」


「どうぞ」


リーナは書類から顔を上げた。


「何か、ありましたか?」


かおりは少しだけ緊張しながら、器具を差し出す。


「……試作品です」


「?」


リーナは首を傾げる。


「農業用の器具です。改良型、というほどでもないですけど」


受け取ったリーナは、静かに眺めた。ひっくり返し、角度を変え、柄を握る。


「……見た目は、普通ですね」


「はい。そこは、わざとです」


かおりは頷いた。


「使い方も、変わりません。ただ……」


説明しながら、指で示す。


「腰を落とさなくても力が入る角度にしてあります。柄を長めにして、負担を減らしてます。刃の幅も、少しだけ調整しました」


リーナは、無言で聞いていた。


「魔法は、使っていません」


その一言に、リーナの視線がかおりへ戻る。


「……それは、意図的に?」


「はい」


即答だった。


「急に変えると、怖がられます。それに……これは、人の仕事を奪うものじゃないので」


少しだけ、間が空く。


「楽になるだけです。でも、考える余地は残ります」


リーナは、器具を机に置いた。


「……使うのは、誰を想定していますか?」


「まずは、数人だけです。全員には配りません」


「理由は?」


「慣れです」


かおりは、真っ直ぐに答えた。


「使って、問題が出て、直して、それを見た人が『あれ、良さそうだな』って思うくらいが丁度いい」


リーナは、目を閉じて少し考えた。


領主として。統治する者として。


「……段階導入。試験運用。影響範囲の限定」


一つ一つ、頭の中で確認していく。


「外部への流出は?」


「今は考えていません。ここで“当たり前”になってからです」


「価格は?」


「最初は、無償で。壊れたら直せるか、そこも確認したいです」


リーナは、ふっと息を吐いた。


「……かおりさん」


「はい」


「あなたは、急がないですね」


かおりは苦笑した。


「急いで失敗するの、得意じゃないので」


リーナは、静かに頷いた。


「分かりました」


そして、はっきりと告げる。


「この試作器具、使用を許可します。対象は、三名まで。記録は、必ず残してください」


「……ありがとうございます」


かおりは、深く頭を下げた。


「ただし」


リーナは続ける。


「“成果”より、“問題点”を重視してください。不満が出たなら、必ず拾うこと」


「はい」


「それが出来るなら――」


リーナは、器具を見つめた。


「これは、良い始まりです」


倉庫へ戻る道すがら。かおりは、胸の奥が少しだけ軽くなったのを感じていた。


「……通った」


派手な承認ではない。だが、確かな許可。


「まずは、一歩」


小さくて、静かな一歩。

でもそれは、この領地が“無理をしないで前に進む”ための、大切な一歩だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ