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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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ゆっくり広げるという選択

やっぱり――

知っていて、黙っているのは違う気がした。


かおりは、朝の畑を眺めながらそう思った。

昨日と同じ風景。

同じ姿勢で、同じ動きを繰り返す人たち。


「……魔法は使わない」


それだけは、最初から決めていた。


便利な魔法。一瞬で作業を終わらせる力。

それは確かに魅力的だ。


でも、それを使った瞬間に“線”を越える。


「だから……やるなら、道具」


人の力を奪わない。人の考える余地を残す。


「ちょっとだけ、楽になるくらいの」



頭の中で、条件を並べる。


・今ある材料で作れること

・壊れても直せること

・使い方が直感的なこと


「……農業器具、だよね」


鍬の形。

柄の長さ。

刃の角度。


ほんの少し変えるだけで、腰の負担は減る。

力の入り方も変わる。


「大改革じゃない。改良」


かおりは、静かに頷いた。



そして、もう一つ。


「一気に広げない」


これが、一番大事だった。


いきなり全部を変えれば、混乱が起きる。

便利さは、恐れにもなる。


「だから……徐々に」


まずは、ここ。この領内だけ。

慣れて、使いこなして、当たり前になるまで。


(“新しい”じゃなくて、“ちょっと使いやすい”)


それくらいが、丁度いい。



その先も、考えている。


「慣れたら……外へ」


だが、それは今じゃない。


「じんわり、広げる」


急がない。焦らせない。


「慣れは、抵抗を消すから」


かおりは、それをよく知っていた。



決めた。


「……まずは、試作」


いきなり配ることもしない。いきなり教えることもしない。


「作って、見せる」


それから――


「リーナに見せる」


この領地の判断は、彼女のものだ。かおりが勝手に決めていい話じゃない。


「オッケーが出たら、ここで使う」


それだけ。



倉庫に入り、木材と金属片を見渡す。


「……よし」


頭の中には、もう形がある。派手さはない。

名前も付かない。


ただ、少しだけ使いやすい道具。


「売り物にするのは、その後」


使われて、評価されて、必要とされてから。


「それなら……奪ってない」


かおりは、工具を手に取った。



ゆっくりでいい。慎重でいい。

世界を変えなくていい。ここを壊さなければ、それでいい。


「まずは、一歩」


その一歩は、とても小さい。


でも、それは――ちゃんと人の足で、進むための一歩だった。

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