言葉になる圧
数日後。
今度は、正式な使者だった。
王都の印を持つ文書。文面は柔らかい。
だが、内容は明確だ。
「当該領地の最近の発展について、状況確認を行いたい」
「視察……という名の、確認ね」
リーナは小さく呟いた。
拒否はできない。
拒否すれば、それ自体が“問題”になる。
◇
使者は、穏やかだった。
「いやあ、素晴らしいですね」
「住民の様子も良い」
「街道の整備も進んでいる」
だが、話題は自然と核心へ向かう。
「最近、こちらの領地発の品がいくつか流通しておりますね」
「木製遊戯盤」
「調味用の白いソース」
「酢を使った保存食」
「はい」
リーナは、短く答える。
「これらは、領地独自の工夫でしょうか?」
――来た。
「そうです」
「生活改善の一環として、導入しております」
「開発者は?」
一瞬の間。
リーナは、迷わなかった。
「特定の“個人”ではありません」
「当領地の生活の中から、生まれたものです」
嘘ではない。
だが、全ても語ってはいない。
使者は、納得したようで、していない顔をした。
「……今後、他領地でも参考にする可能性があります」
「その際、ご協力をお願いするかもしれません」
「検討いたします」
それ以上は、踏み込ませない。
◇
使者が去った後。
リーナは、一人で庭に立っていた。
遠くで、子供たちの声がする。
誰かが、リバーシブルの駒をひっくり返して笑っている。
(これを……どう守るか)
かおりは、答えを出さない。
だからこそ、自分が決める。
「善意は、広がる」
「広がりすぎれば、形を変える」
その事実を、リーナははっきりと理解していた。
そして――
次は、“選ぶ段階”だと。




