外から聞こえる声
それは、村の外から始まった。
最初に届いたのは、商人の噂話だった。
「森の奥に、新しい領地が出来たらしい」
「女領主だそうだ」
「妙に規律が厳しいらしいぞ」
酒場で交わされる、いつもの類の話。
だが、内容は少しずつ具体性を帯びていった。
「誰でも受け入れると思ったら、条件付きだとよ」
「働く意思が無いと入れないらしい」
「技術はあるが、無償では渡さないとか」
◇
街道沿いの宿場町。
旅人が、荷を下ろしながら言った。
「不思議な場所だ」
「噂ほど冷たくはない」
「ただ……甘くはない」
それを聞いた別の男が鼻で笑う。
「理想を語る新興地なんて、どうせすぐ崩れる」
「線を引いたら人は集まらん」
だが、反論もすぐに返ってきた。
「いや、逆だ」
「今は“本気の連中”だけが集まってる」
◇
王都。
下級貴族の間でも、話題に上り始めていた。
「ルーディア伯爵家の新領地」
「姫が直接、統治を行っているらしい」
「技術者集団がいるとか」
資料をめくる者が、眉をひそめる。
「……支援を断った記録がある」
「しかも、かなりの数を」
「大胆だな」
「無謀とも言える」
だが、別の者が静かに指摘した。
「結果は?」
「……今のところ、安定している」
部屋の空気が、わずかに変わった。
◇
一方、その噂の中心にいる村では。
かおりは、倉庫で工具を整理していた。
「最近、外の人が増えた気がする……?」
直接、何かを言われることはない。
だが、視線の数が確実に増えている。
「……まあ、想定内か」
便利なものが生まれ。
秩序が保たれ。
しかも、統治が破綻していない。
「そりゃ、気になるよね」
かおりは、それ以上深く考えないことにした。
判断は、もう自分の役目ではない。
◇
リーナの元にも、報告は届いていた。
「視察希望、三件」
「商人からの正式打診、二件」
「非公式の接触、数件」
机の上に並ぶ書類を見て、リーナは静かに息を吐く。
「……早すぎますね」
まだ、内部は整いきっていない。
今は“見せる段階”ではない。
「すべて、保留」
即断だった。
「条件提示のみ行い、返答は半年後」
「現地視察は、原則不可」
側近が一瞬、ためらう。
「評判を落とす恐れは……」
「評判は、落としても構いません」
リーナは、きっぱりと言った。
「壊れるより、ずっと良い」
◇
その夜。
村の灯りを遠くに見ながら、リーナは思う。
噂は、制御できない。
評価も、思惑も、勝手に膨らむ。
だが――
「中身が伴っていれば、耐えられる」
今は、まだ小さな芽。
踏まれれば折れる。
だからこそ、守る。
外の声に、引きずられない。
期待にも、恐怖にも、迎合しない。
「……ここは、ここ」
リーナは、静かにそう結論づけた。
◇
翌朝。
村はいつも通り動き出す。
畑を耕す音。
木を削る音。
子どもたちの笑い声。
外では、評価と噂が渦巻いている。
だが、この場所では。
今日もまた、
“選んだ人たち”が、
“選んだ生活”を続けているだけだった。




