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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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線の外側と内側

朝の空気は、少し重かった。


人が増え、物が動き、村が“形”になってきたからこそ。

ここが無限ではないという事実が、誰の目にも見えるようになってきた。


受け入れ条件の掲示板の前には、人が集まっていた。

怒鳴り声はない。

だが、沈黙が重い。



最初に去っていったのは、一人の男だった。


働く意思も、技術もあった。

だが、家族を含めた人数が多すぎた。


「……そうか」


説明を受けたあと、男は短くそう言った。


支援として渡されたのは、数日分の食料と道具、そして紹介状。

他の開拓地への道筋が、丁寧に書かれている。


「悪いな」


対応した弟子が、そう言った。


男は首を振った。


「違う。分かってる」


怒りは、飲み込まれていた。

理解も、していた。


それでも、胸の奥に残るものを消すことは出来ない。


家族の手を引き、男は村を後にした。

振り返らなかった。



別の家族は、静かに受け入れていた。


子どもがまだ小さく、労働力として数えられるのは母親一人。

条件を満たさない。


「……今は、難しいです」


そう言われた時、母親は一度だけ目を伏せた。


そして、差し出された支援物資を見て、小さく息を吐いた。


「ありがとうございます」


それは形式的な礼ではなかった。


「ここは……いい場所ですね」


思わず出た言葉だった。


何でも与えてくれる場所ではない。

だが、切り捨てる場所でもない。


「また、力をつけてきます」


そう言って頭を下げ、家族と共に歩き出す。


この村は、待つとは言わなかった。

だが、拒絶もしなかった。


それが、この場所のやり方だった。



条件を飲んで残る者もいた。


労働時間。

共同作業。

勝手な判断は禁止。


正直、楽ではない。


だが、条件書には理由が書かれていた。

誰のためかも、はっきりと。


「……守るため、か」


署名を終えた男は、紙を見つめた。


自由は減る。

だが、代わりに続く場所に居られる。


夜、共同の食事場で囲む食卓。

豪華ではないが、落ち着く。


ここは楽園ではない。

だが、壊れないように作られている。


そういう場所だと、理解した。



少し離れた場所で、かおりはその様子を見ていた。


前に出ないと決めた以上、指示は出さない。

判断も、現場に任せている。


それでも、胸の奥がざわつく。


「……これで、いい」


何度も、自分に言い聞かせる。


全員を助けることは出来ない。

だが、線を引かなければ、ここは潰れる。


優しさを広げすぎれば、全てが壊れる。


「選ばなかったんじゃない……続けるために、止めただけ」


その言葉は、誰に向けたものでもない。

自分自身への確認だった。



線を引いたことで、救われなかった人はいる。


だが、線を引かなければ、

もっと多くのものが失われていた。


この場所は、万能ではない。

奇跡でもない。


それでも――


守ると決めたからこそ、続いていく。


線の内側と外側。

その境界で、村は静かに“次の段階”へと進み始めていた。

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