表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/151

線を引くという決断

このままじゃ、ここが潰れてしまう。


その考えが、かおりの頭から離れなかった。


朝の村は、以前と変わらず穏やかだった。

子供たちは遊び、大人たちは働き、笑い声もある。


それでも――

どこか、張りつめている。


「……限界が、近い」


感覚的に、わかってしまった。



増え続ける人。

追いつかない仕事。

減っていく備蓄。


誰かが怠けているわけじゃない。

むしろ皆、必死だ。


「助けたい」


「困ってる人を放っておけない」


その気持ちが、村全体にあった。


だからこそ、止まらない。


「善意だけで回るなら……世界はもっと楽なのにね」


かおりは、倉庫の壁に背を預け、小さく息を吐いた。



「かおり!」


ミリャが駆け寄ってくる。


「今日も人が来た。三家族」


「住む場所がないから、また川沿いだ」


「……そう」


「どうする?」


ミリャの問いは、重かった。


「俺たちだけじゃ、もう決められない。皆、かおりの判断を待ってる」


その言葉に、胸がきゅっと縮む。


(私は……決めない役だったはずなのに)


そう思いながらも、現実は待ってくれない。



その日の午後。


かおりは、久しぶりに一人でノートを開いた。


古紙回収品の裏紙。

そこに、思いつくまま書き出していく。


・食料の生産量

・仕事の数

・住居の数

・医療、衛生


数字にすると、はっきりする。


「……足りない」


どれも、足りない。


「じゃあ、増やす?」


すぐに首を振る。


「無理」


一気に増やせば、破綻する。

急げば、質が落ちる。

そして――争いが起きる。


「……線を、引くしかない」


その言葉を書いた瞬間、手が止まった。


線を引く。

助ける人と、助けられない人を分ける。


(それって……残酷?)


心が、揺れる。



夕方。


かおりは、リーナの館を訪ねた。


「リーナ、少し話せる?」


「もちろんです」


二人は、地図の前に立った。


「この村……いえ、この領地、今が分岐点です」


リーナは、静かに言った。


「全てを受け入れれば、全てを失います。拒めば、恨みも残るでしょう」


「……難しいね」


「ええ」


リーナは、かおりを見る。


「ですが、“条件付きで受け入れる”という選択肢もあります」


「条件?」


「はい」


リーナは、指で地図をなぞった。


「仕事に就く意思がある者」


「共同作業に参加する者」


「最低限の規律を守れる者」


「それ以外は……」


「一時的な支援に留めます。食料、情報、他の土地への紹介」


かおりは、息を呑んだ。


「冷たい、かな?」


「いいえ」


リーナは、はっきり言った。


「誠実です」



夜。


かおりは、一人で村を歩いた。


灯りの下で、誰かが笑っている。

別の場所では、疲れた顔で肩を寄せ合う人たち。


「全部、守りたいよ」


そう思う。


でも。


「守れない約束は、しちゃいけない」


それは、この世界に来てから学んだことだった。



翌朝。


広場に、人が集められた。


リーナが前に立ち、はっきりと告げる。


「この地は、誰でも無条件に住める場所ではありません」


ざわめき。


「ですが、働き、支え合う意思がある方は、歓迎します」


条件が示される。


仕事の割り振り。

共同作業。

最低限の規律。


そして――


「今すぐ住めない方には、支援を行います」


「食料と、次に向かう場所の情報を」


不満の声も、安堵の声も、両方が上がった。



少し離れた場所で、かおりはそれを見ていた。


胸が、少し痛む。


「……これで、いいんだよね」


誰にともなく、問いかける。


答えは、すぐには出ない。


でも。


村は、その日も崩れなかった。


善意は、形を変えた。

無制限ではなく、持続するものへ。


「壊さないために、線を引く」


それは、優しさとは違う。

でも――責任だった。


かおりは、静かに空を見上げた。


この場所が、続くために。今は、それでいいのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ