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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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静かに広がる評判

村の朝は、以前より少しだけ賑やかになった。


木工師の工房からは、木を削る規則的な音が聞こえ、広場では子供たちが何やら盤を囲んで騒いでいる。

白と黒の石を裏返しながら、勝っただの負けただのと声を上げる様子は、どこか平和そのものだった。


「……すっかり馴染んだわね」


かおりは、少し離れた場所からその光景を眺めていた。

自分が持ち込んだ“遊び”が、ここまで自然に生活に溶け込むとは思っていなかった。


だが――

その変化は、村の中だけに留まらなかった。



「この村、妙に活気があるらしいぞ」


昼前、商人たちが立ち寄る簡易市場で、そんな声が聞こえてきた。


「娯楽があるとか、食い物がうまいとか」


「領主の娘が、変わり者らしい」


最後の言葉に、かおりは思わず苦笑した。


(……まあ、否定はできないけど)


調味料の話も、リバーシブルの話も、少しずつ外へ漏れていく。

それは当然のことだった。人が集まれば、噂は広がる。


問題は――どんな形で伝わるか、だ。


「余裕がある村だな」


「税が安いんじゃないか?」


「何か特別な後ろ盾があるんじゃ?」


憶測は、いつの間にか事実のように語られ始める。



リーナの館では、報告が上がっていた。


「近隣の商会から、取引の打診が来ています」


「調味料の件と、木製盤の件です」


「……思ったより早いですね」


リーナは書類に目を通しながら、静かに息を吐いた。

予想はしていた。だが、想定よりも一歩早い。


「悪い話ではありません。ですが――」


補佐役の言葉に、リーナは頷く。


「ええ。“早すぎる”というだけです」


売れば利益になる。

領地の収入も増える。

判断としては、間違っていない。


それでも。


(この村は、まだ“整っている途中”)


リーナは、ふと視線を上げた。


「……かおり様は?」


「畑の方かと」


「そうですか」


それ以上、名前は出さなかった。



かおりは家庭菜園で、土をいじっていた。

見慣れない色の野菜。名前も、用途も、まだ完全には把握していない作物。


「でも、ちゃんと育ってる」


それでいい。


最近、館に呼ばれることが減った。

決定の場に、自然と席が用意されなくなった。


(……うん。悪いことじゃない)


むしろ、理想に近い。


リーナが判断し、周囲が動き、村が回る。

自分が前に出なくても。


「……ちょっと、寂しいけどね」


ぽつりと零す。


けれど、それ以上は踏み込まない。

これは、自分が選んだ距離だ。



夕方、村に旅人が一人、立ち寄った。


子供たちが盤を囲むのを見て、興味深そうに足を止める。


「それは、何だ?」


「遊びだよ!」


「簡単だけど、強いと勝てない!」


旅人は笑い、銀貨を一枚取り出した。


「土産に欲しいな」


その様子を、遠くからリーナが見ていた。


(……もう、“内輪のもの”ではない)


広がること自体は、悪ではない。

だが、広がりは制御できない。


リーナは、静かに決意を固めた。


「段階を、踏まないと」



夜。


かおりは、ノートを閉じた。今日も、特に何も起きなかった。村は平和で、機能している。それが、少しだけ胸に引っかかる。


「……上手くいってるのよね」


独り言のように呟き、灯りを落とす。


外では、誰かが勝負に負けて悔しがる声がした。笑い声が続く。

壊れていない。むしろ、うまくいっている。


だからこそ――この静かな広がりが、少しだけ、気になった。

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