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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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黒白の盤、仕事の芽

さて、と。


かおりは軽く手を叩き、建築現場とは逆方向へ足を向けた。

目的地は、村の外れにある木工師の作業場だ。


「まずは、形にしないとね」


頭の中だけでは、産業にはならない。

手に取れる“物”になって、初めて話が進む。



木工師の工房は、今日も木の香りに満ちていた。

削りかすが床に積もり、陽の光が舞っている。


「こんにちはー」


「おう、かおりさん。どうした?」


事情を簡単に説明し、紙に描いた簡単な図面を差し出す。


「これを、作って欲しいんです」


木工師は、図面を覗き込み、首を傾げた。


「盤……? 石?」


「はい。両面使えるようにして、白と黒に分けてください」


「ほう……」


しばらく考え込み、やがて頷いた。


「加工自体は、難しくないな」


「ちょっと待ってな」


そう言って、すぐに作業に取りかかる。



手慣れた動きだった。


板を切り出し、表面を整え、升目を刻む。

丸く切り出した木片を磨き、片面を焼いて色を変える。


「……こんな感じか?」


差し出されたそれを、かおりは受け取った。


「ええ! それで完璧です!」


「……妙なもんだな」


木工師は、出来上がった盤と石を眺めながら首を傾げる。


「何に使うんだ?」


「遊びです」


「……遊び?」


「はい。でも、そのうち仕事になりますよ」


にこっと笑って、そう言った。


「上手くいけば、継続的に注文が来ます」


「この領地の“名物”になるかもしれません」


木工師は、半信半疑のまま、腕を組んだ。


「ほう……」


「まあ、悪い話じゃなさそうだ」



出来上がった盤を抱え、かおりはそのままリーナの元へ向かった。


「リーナさーん」


執務の合間だったらしく、書類から顔を上げる。


「かおり? それは……?」


「ちょっと、見て欲しいものがあるんです」


机の上に、盤と石を並べる。


「何ですか、これ?」


「上手くいけば、この領地の産業になるかもしれないものです」


リーナは、興味深そうに身を乗り出した。



かおりは、簡単に説明を始めた。


「盤の上に石を置いて、相手の石を挟むと、自分の色に変わります」


「最終的に、数が多い方の勝ち」


「……それだけ?」


「それだけです」


リーナは、少し拍子抜けした顔をしたが――

すぐに、盤をじっと見つめ始めた。


「……では、やってみましょう」



勝負は、すぐに始まった。


最初は軽い気持ちで石を置いていたリーナだったが、数手進むと表情が変わる。


「……なるほど」


一手一手、慎重になる。


「簡単ですが……考えさせられますね」


「でしょう?」


盤面が埋まる頃、リーナは小さく息を吐いた。


「奥が深い……」


「これは、面白いです」



勝負が終わると、かおりは三つの案を提示した。


「これ、三種類で展開したいんです」


「三種類?」


「はい」


指を折りながら説明する。


「市民用。安価で、木製のみ」


「裕福層向け。仕上げを良くして、石も磨き込みます」


「貴族用。装飾入り、注文生産」


リーナは、即座に理解した。


「……なるほど」


「まずは、市民用から生産を始めましょう」


「価格を抑えて、広く行き渡らせる」


「裏には――」


「ええ」


かおりは、にやりと笑った。


「板の裏に、ルーディア家の家紋を焼き付けます」


「ここで作られた物だと、分かるように」


リーナは、静かに頷いた。


「良い案です」


「すぐに手配しましょう」



こうして。


ただの遊びだった黒と白の盤は、

仕事となり、産業の芽となり、

この領地に、新しい役割を与え始めた。


戦わず、奪わず、争わず。

人の手と時間で生まれる、小さな価値。


それは確かに――

この土地が「生きる場所」である証だった。

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