混ぜる知恵は、売れる
「この二種類は――」
リーナは、きっぱりと言った。
「レシピを、販売します」
「……へ?」
かおりは、一瞬言葉を失った。
「は、販売……ですか?」
「はい」
当然のように、頷く。
「商人にです!ここ、ルーディア伯爵領直轄地の、正式な収入源にします」
「えっ……そんな事、出来るんですか?」
思わず聞き返してしまう。
「出来ます」
即答だった。
「“物”でなくても、“知恵”は商品になります!特にこれは、再現性が高く、危険性が低い」
リーナは、指を折りながら説明する。
「材料は、どこでも手に入る」
「特別な道具はいらない」
「兵器転用も不可能」
「独占して支配する事も出来ない」
「……確かに」
「ですが」
リーナの視線が、かおりに向く。
「“最初に知っている”という価値は、あります」
「……あ」
そこで、ようやく理解が追いついた。
「レシピ、という形なら……」
「ええ」
「こちらは“量産”しません!“教える権利”を売るだけです」
リーナは、少しだけ笑った。
「それも、期限付きで」
「期限……?」
「一定期間、特定の商会のみが扱える!その後、次の商会へ」
「独占を固定化しない……」
「はい」
かおりは、思わず唸った。
「……すごい」
「領地が小さい今だからこそ、出来る方法です」
リーナは、机の上に手を置く。
「物資は、まだ乏しい!人も、少ない!だから、“知恵”で稼ぐ」
「……」
「しかも」
声が、少し柔らぐ。
「生活を豊かにするものです!恨みも、争いも生まれにくい」
「……それ、凄く大事です」
かおりは、深く頷いた。
「売る相手は、どうするんですか?」
「信頼できる商人だけです!身元保証、契約、違反時の罰則!すべて、書面で残します」
「本気ですね……」
「領主ですから」
そう言って、リーナは背筋を伸ばした。
「かおりさん」
「はい」
「このレシピは、あなたの発想です!ですが、“領地の資産”として扱わせてください」
一瞬の沈黙。
かおりは、少し考えてから、笑った。
「……いいですよ」
「いいんですか?」
「はい」
「皆の生活が良くなって、領地が安定するなら」
「それに」
少しだけ、声を落とす。
「私一人で抱えるより、その方が安全です」
リーナは、目を細めた。
「……ありがとうございます」
「こちらこそ」
白いソースと、淡いドレッシング。
それはもう、ただの調味料ではなかった。
“混ぜる”という小さな知恵は――
この領地にとって、初めての正式な知的収入源となったのだった。




