白いソースの取り調べ
「これは……何ですか?」
静かな声だった。
だが、その静けさが逆に圧を生む。
かおりの目の前、テーブルの上。
並べられているのは二つの器。
一つは、白くなめらかなソース。
もう一つは、淡い色合いの液体。
リーナは、じっとそれを見つめていた。
「白い方はマヨネーズで……」
「こちらはドレッシングです」
かおりは、慎重に答える。
「どちらも、野菜にかけたりする物で……」
「……」
リーナは、無言でスプーンを取り、白い方を少しすくった。
口に運ぶ。
「……」
一瞬、目を伏せる。
「……こんな美味しいものを」
ゆっくりと顔を上げる。
「こっそり使って、食べていたなんて……」
声は穏やかだ。
だが、明らかに“管理者の顔”だった。
「い、いや……昨日作ったものでして……」
「昨日?」
「はい」
「では、この味は……」
リーナの視線が、倉庫の棚へ向かう。
「ここにある材料だけで?」
「勿論です」
かおりは、頷いた。
「工程も、それほど難しくありませんし、特別な道具も、魔道具も使っていません」
「……」
リーナは、今度はドレッシングの方を口にする。
「……なるほど」
一拍。
「これは……」
もう一口。
「……はあ……!」
思わず、声が漏れた。
「“混ぜる”だけで、ここまで変わるのですね……」
怒りは、完全に消えていた。
代わりに浮かんでいるのは、純粋な興味。
「卵と油と酢……それを順序と量で……」
「はい」
かおりは、静かに続ける。
「材料は、すでに皆が知っているものです、ただ、“どう混ぜるか”を知らなかっただけで」
リーナは、腕を組み、考え込む。
「……量産性は?」
「手作業です。一人で作れる量には、限界があります」
「保存は?」
「日持ちは、あまりしません」
「……独占は?」
「出来ません」
即答だった。
リーナは、ゆっくりと息を吐く。
「……なるほど」
そして、かおりを見る。
「これは、武器ではありませんね」
「はい」
「ですが……」
視線が鋭くなる。
「“影響”は、確実にあります」
「……」
「野菜嫌いの人間が、食べるようになる」
「食事が楽しくなる」
「生活の質が、上がる」
一つ一つ、言葉を置く。
「統治にとって、無視できない要素です」
沈黙。
やがて、リーナは椅子に座り直した。
「詳しく」
声の調子が変わった。
完全に、領主のものだ。
「作り方、工程、失敗例。誰に、どの段階で伝えるべきか」
「……全部、話を聞きましょう」
かおりは、小さく笑った。
「はい」
白いソースと、淡いドレッシング。
それはただの調味料だった。
だがこの日、それは正式に――
“管理される価値のある生活技術”として、
テーブルの上に置かれたのだった。




