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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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混ざる鳴き声、広がる食卓

朝から、やけに騒がしい。


かおりは建築現場へ向かう途中で足を止め、思わず首を傾げた。

聞こえてくるのは、どうにも統一感のない鳴き声の数々だ。


「……今度は、何?」


音のする方へ向かうと、柵で囲われた一角に人だかりができていた。

そして、その中心には――


「……牛、かしら?」


見た目は牛に近い。

体格もそれなりに大きく、角もある。

だが。


「ブヒ! ブヒ!」


鳴き声が、完全に豚だ。


「えっ……?」


思考が追いつく前に、次の鳴き声が重なる。


「……あ、これは鶏っぽいわね」


羽毛の質感、体の大きさ、くちばし。

どう見ても鶏系統だ。


「メ〜! メ〜!」


「……鳴き声、羊!?」


さらに奥を見ると。


「これは……猪? 豚?」


見た目はどう考えても猪だ。

牙もあるし、筋肉質だし、野生味がすごい。


「にゃ〜! にゃ〜!!」


「うぅ……」


かおりは、思わずこめかみを押さえた。


「もう、やめて……頭の中が混乱する……」



どうやら、これもリーナが手配した開拓団の一部らしい。

人だけでなく、家畜も一緒に連れてくる。

領地を“生活圏”として成立させるには、当然の判断だ。

だが、かおりの視線は自然と別の方向へ向かっていた。


家畜。

それはつまり――


「……食、よね」


肉、乳、卵。

安定供給ができるようになれば、食生活は一気に変わる。


「食が安定すると、人は落ち着く」

どこかで聞いた言葉が、頭に浮かんだ。



その日の午後。


かおりは倉庫にこもっていた。

目的は一つ。


「料理本……料理本……」


古紙回収で集めた本の山。

その中から、料理関連のものを引っ張り出す。


「あるある……和食、洋食、保存食……」


ページをめくるたび、懐かしい写真や工程が目に入る。


「これ、再現できそうね」


調味料は制限がある。

だが、基本の考え方は使える。


煮る、焼く、干す、燻す。

保存の工夫。

肉の部位ごとの扱い。


「……うん」


かおりは、本を閉じて一息ついた。


「食なら……大丈夫、よね?」


技術革新ではある。

だが、魔道具でも兵器でもない。


「食文化の導入は、影響は出るけど……破壊的じゃない」


意識した“距離”。

それを思い返す。


「便利すぎる道具は制限する。でも、知恵は共有できる」


料理は、まさにその中間だ。



夕方。


かおりは、爺さんの元を訪ねた。


「家畜が来たんです」


「ほう」


「それで……料理、少しずつ広げようかと思って」


爺さんは、目を細めた。


「食か」


「はい。生活に直結しますし」


「……良い判断じゃ」


即答だった。


「食は人を縛らん。むしろ、繋ぐ」


「制限は?」


「量産調味料や保存法は、段階的にじゃな。だが家庭料理程度なら問題あるまい」


「よかった……」


かおりは、心から安堵した。



翌日。


かおりは試作を始めていた。


まずは、卵っぽいもの。

鶏っぽい生き物から取れたものだ。


「……普通に卵ね」


焼いてみる。

匂いも、味も問題ない。


「次は……肉」


猪っぽい家畜の肉を、慎重に火にかける。


「……美味しい」


脂は多いが、臭みは少ない。

工夫すれば、かなりいける。


一口、二口。

表情が、ぱっと明るくなる。


「うまい!」


「肉、久しぶりだ……」


その瞬間、かおりは確信した。


「これは……正解」



夜。


一日の終わりに、かおりは小さく笑った。


「技術は慎重に。でも……」


食卓が豊かになることまで、止める必要はない。


混ざる鳴き声。

奇妙な見た目。

それでも、命をいただくという本質は同じだ。


「この場所、ちゃんと“暮らし”になってきてる」


家畜の鳴き声が、夜に溶けていく。


その音は、混乱ではなく。

新しい日常の、前触れだった。

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