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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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善意は止まらない

朝の村は、やけに賑やかだった。


木槌の音。

話し声。

荷馬車のきしむ音。


開拓団の到着から数日。

人が増えれば、動きも増える。

それは当然の流れだった。


かおりは、その様子を少し離れた場所から眺めていた。


「……思ったより、早いな」


良い意味でもあり、少しだけ嫌な意味でもある。


建築予定地では、すでに何人かの職人が動いていた。

図面を囲み、相談しながら柱の位置を決めている。


「そこ、少し広げた方がいいな」

「通路だろ? 将来、荷も通るかもしれん」

「なら最初からだ」


かおりは、声をかけようとして――やめた。


間違ってはいない。

むしろ、よく考えている。


(……任せたんだし)


そう、自分で決めたことだ。


全てを自分で決めない。

指示しすぎない。

動きを止めない。


それが今の方針だった。


少し歩くと、水路の方が騒がしい。


「あ、かおりさん!聞いてください!」


開拓団の若者が、嬉しそうに駆け寄ってくる。


「井戸の水、少し分けてもらって、こっちにも仮配管を引いてみたんです」


「飲用じゃなくて、洗い物用ですけど!」


指さされた先には、簡易的に組まれた水桶と配管。


「勝手に……やりましたけど、大丈夫でしたか?」


不安と期待が混じった目。


かおりは、一瞬だけ考えてから頷いた。


「用途限定なら、問題ないです」


「ちゃんと止水できるようにしておいてください」


「はい!」


走って戻っていく背中。


(……一応、確認は取ってきたか)


完全な独断ではない。

それが、なおさら止めにくい。


さらに進むと、今度は畑の方。


「この苗、間隔もう少し空けた方が良さそうだな」


「温水排水が来るなら、冬も育つかもしれん」


勝手に配置を変えた形跡があった。

だが、理屈は通っている。


「……まあ、いいか」


誰も悪くない。

むしろ、前向きだ。


問題は、誰が全体を見ているか、だった。


その頃。


仮の執務区画では、リーナが書類に目を通していた。


開拓団の名簿。

職種。

家族構成。


「……思ったより、自由ですね」


ぽつりと呟く。


父であるハインリヒは、少し離れた椅子で紅茶を飲んでいた。


「縛らん方が伸びる。だが、統制は後から要る」


「はい……」


リーナは、ふと視線を上げる。


窓の外。

皆が忙しそうに動いている。


「皆さん、かおりさんに直接聞きに行ってますね」


「そうだな」


「私を通さずに」


ハインリヒは、何も言わなかった。

それ自体が答えだった。


「……今は、まだ」


リーナは、そう言って書類に視線を戻す。


自分が前に出れば、流れが変わる。

だが、それは今ではない。


かおりが決めた“距離”を、尊重する。


夕方。


かおりは、簡易居住区の見回りを終えて戻ってきた。


「……今日も何も起きなかった」


口にして、少しだけ違和感を覚える。


本当に、何も起きていないのだろうか。


水路は増えた。

畑の配置も変わった。

建築計画も、少しずつ現場判断で動いている。


全部、良い方向だ。

今のところは。


(でも……)


誰が、止めるのか。

どこで、線を引くのか。


それは、まだ決まっていない。


その夜。


かおりは、作業日誌をつけながら手を止めた。


「……明日でいいか」


今日は疲れた。

皆も、頑張っている。


問題が起きたら、その時考えればいい。


そうして、ペンを置いた。


静かな夜だった。


だが、村はもう「動き始めた歯車」を止められない段階に入っていた。


善意で。

判断を任され。

誰にも悪意のないまま。


それが、どこへ向かうのかは――まだ、誰も知らない。

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