荷物が届き始める
暫くすると、村の入口の方が騒がしくなった。
荷馬車が一台、また一台と連なって到着してくる。
……あれ、馬?
いや、角が生えてる。
「……ユニコーン?」
思わず声が漏れた。白い体躯に、額から真っ直ぐ伸びる一本角。絵本でしか見たことがない存在が、普通に荷馬車を引いている。
「ええ、輸送用の角馬ですわ」
いつの間にか隣にいたリーナさんが、さらりと説明した。
「え、普通に使うの?」
「耐久力と魔力の循環が優秀ですから。長距離輸送では重宝されますの」
……この世界、やっぱり油断ならない。
荷台からは、木箱や樽、書類箱のようなものが次々と降ろされていく。
その様子を見ていると、背後から元気な声が飛んできた。
「お姉様?」
「はい!」
振り向くと、リーナさんが少しだけ誇らしげな表情で立っていた。
「この世界の書物を取り寄せましたので、お目通しをお願いしますね。
各分野、関連しそうなものを幅広く選びましたわ」
「……これ全部?」
「はい!」
即答だった。
「基礎史、領地経営、建築、医療、農業、魔術理論、法制度……必要になりそうなものは一通り」
「解った。後でじっくり見るね」
「よろしくお願いします!」
満面の笑み。
本当にしっかりしている。
それに、彼女の足元にも自然と目が行く。
補助器具は問題なく動いているようだし、杖を使えば自分で歩き回れている。動きもだいぶ安定してきた。
(……上手くいって良かった)
思わず胸を撫で下ろす。
それにしても――。
「温泉、やっぱり身体に良いわよね」
ぼそっと呟くと、すぐに次の考えが浮かぶ。
「リーナさんの館、早めに入浴施設を作ってあげよう。室内用と、外気に触れる露天っぽいやつと。室内様は立って歩ける細長いプール的なのも作ろう」
あの足のことを考えると、温熱と水圧は絶対に助けになる。
「さて……」
一通りの確認を終えて、私は一人、家の裏手へ向かった。
目的地は、庭の家庭菜園だ。
「そろそろ、どうなってるかな……」
覗き込んだ瞬間、思わず首を傾げた。
「……なに、これ」
紫色のトマトっぽい実。
白と黒の縞模様がくっきりした胡瓜……らしきもの。
他にも、見たことのない色合いの野菜が、普通に実り始めている。
「カラフルすぎない?」
どう見ても地球の野菜とは別物だ。
ただ、艶は良いし、生命力も強そうではある。
「……食べ方、大丈夫よね?」
少し不安になりながらも、今は収穫には早い。後でミリャさんに聞けばいいか。
異世界の野菜、異世界の書物、異世界の輸送手段。
それでも、こうして一つずつ「日常」になっていく。
私は土の匂いを吸い込みながら、静かに息を吐いた。
「……忙しいけど、悪くないわね」
そんな独り言が、春の空気に溶けていった。




