表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/47

ミリャとかおり

会話が一段落したところで、かおりはふと思い出したように立ち上がった。


「少し待ってて」


そう言って、棚の一角へ向かう。ミリャは警戒を解かずに様子を見ていたが、敵意のある動きではないと判断したのか、黙って待った。


かおりが戻ってきた手には、マグカップが二つあった。


「お茶、飲める?」


「……茶?」


「葉っぱを乾燥させて、お湯で出した飲み物。落ち着くよ」


ミリャは一瞬戸惑ったが、差し出されたカップを両手で受け取った。湯気が立ち上り、かすかに香ばしい匂いが鼻をくすぐる。


「匂いが……優しい」


「熱いから、ゆっくりね」


ミリャは慎重に口をつけ、小さく一口含んだ。


次の瞬間、目を見開く。


「……!」


言葉が出ないまま、もう一口。今度ははっきりと味わうように。


「これは……苦くない。甘くもないのに、嫌じゃない」


「焙じ茶っていうの。私の世界のお茶」


「飲み物で、こんな……」


ミリャはしばらく黙り込み、両耳がぴくぴくと動いていた。


「森では、水か果実酒くらいしか口にしない。温かくて、安心する味は……久しぶりだ」


かおりは少しだけ微笑んだ。


「そう言ってもらえると嬉しい」


ミリャはカップを大切そうに持ったまま、倉庫の中を改めて見回した。


「この場所……不思議だ」


棚に並ぶ箱、工具、見慣れない部品。天井の灯り。整然とした空間。


「これは何だ?」


「ドライバー。回して留める道具」


「これは?」


「ペンチ。挟んだり、曲げたりする」


一つ一つ質問し、かおりはその都度、簡単に説明する。ミリィは真剣な顔で聞き、時折感心したように尻尾を揺らした。


「武器でなく、生活のための道具……人の営みが、ここに詰まっている」


「倉庫だからね。何でも屋の」


「何でも屋……やはり不思議な職だ」


一通り見終えたあと、今度はかおりが問いを投げた。


「ねえ、ミリャこの世界のこと、少し教えてほしい」


ミリャはカップを置き、背筋を伸ばした。


「ここは王国領の外れに近い森だ。人族、獣人、エルフ……いくつかの種族が共存している」


「猫族は?」


「獣人の一種だ。森と相性がいい。私は戦士だが、狩りや巡回が主な役目になる」


「魔法は……普通にあるの?」


「ある。誰でも使えるわけではないが、珍しくはない」


かおりは内心で、やはりそうか、と納得した。


「この森が危険だって言ってたよね」


「最近、小さな魔物が増えている。群れは弱いが、数が増えると厄介だ」


「だから見回りを?」


「そうだ。そして、この建物が現れた」


ミリャは真っ直ぐに、かおりを見る。


「正直に言えば、警戒していた。だが……」


視線が、マグカップへ落ちる。


「敵意は感じない」


「それはよかった」


「それに……この倉庫は、集落にとっても役立つかもしれない」


「直せる物、作れる物なら手伝えるよ」


その言葉に、ミリャの耳がはっきりと立った。


「本当か?」


「何でも、とは言えないけど。できる範囲でなら」


短い沈黙のあと、ミリャはゆっくりと頷いた。


「……では、改めて言おう。かおり、この森へようこそ」


その言葉は、歓迎だった。


かおりは少し照れくさくなりながら、答える。


「よろしく。」


倉庫の中、湯気の立つカップを挟んで。


二人の距離は、確かに縮まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ