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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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大衆浴場?

「……温泉、かぁ」


三本目の井戸に取り付けた仮コックを眺めながら、かおりは腕を組んだ。


高温水。

匂いもあるが、嫌な感じではない。

むしろ――


「これ、上手く使えば……」


自然と笑みが浮かぶ。


「大衆浴場、作れるわよね」



「露天風呂付きとか、良くない?」


周囲に集まったミリャたちに言うと、一瞬きょとんとした顔をされた。


「たいしゅう……?」


「皆で入るお風呂よ。広いやつ」


「ほぉ……」


ミリャが顎に手を当てる。


「確かに、この量の湯なら一人二人で使うのは勿体ねぇな」


「でしょ?」


かおりは頷いた。


「湯の成分はまだ分からないけど、雰囲気は最高よ。森の中で露天風呂とか、かなり風流」


「……露天?」


「外にあるお風呂」


「ほぉ……」


皆の目が、少しずつ輝き始める。



「それとね」


かおりは、図面代わりの板に簡単な線を引いた。


「このお湯、各家にも配管通したいの」


「家でも風呂に入れるってことか?」


「うん。冬とか特にね」


そこで、ふと疑問が浮かぶ。


「……この世界、冬ってあるの?」


ミリャが即答した。


「あるぞ。雪も降る」


「……ですよね〜」


かおりは、天を仰いだ。


「じゃあ、やるしかないわね」


寒い時期に、湯がある。

それは生活の質を一段引き上げる。


「水だけじゃ足りない。お湯はインフラよ」



「さーて」


手を叩く。


「やりますよ!」


まずは浴場の場所決め。

源泉に近く、かつ生活圏から少し離す。


「湯気と湿気があるから、建物は木と石を併用ね」


「床は滑りにくくして……」


考え始めると、止まらない。



――その時。


「……お?」


通信魔道具が、淡く光った。


「お友達からね」


かおりは、一歩下がって通信を繋ぐ。


「もしもし、どうしたの?」


『おう!まずは吉報だ』


声の向こうは、随分と明るい。


『あの街の領主、交代になるぞ』


「……!」


かおりは、思わず息を呑んだ。


『元から評判は悪かったそうだ』


「フォフォ……」


横で聞いていた爺さんが、満足げに笑う。


『それと、もう一つ』


「それと?」


少し間があった。


『……その内に、伯爵がそちらに礼に行くそうだ』


「伯爵が?」


『ああ。爵位としてじゃない』


『一人の父親として、な』


爺さんが、ゆっくり頷く。


「ほぅ……流石、伯爵の器じゃな」


『まあ、俺はこの足で王都へ向かう』


『後は任せたよ』


「……?」


爺さんが眉を上げる。


「何じゃ?歯切れが悪いな?」


『そちらの話は、報告書で詳しく渡してある』


そう言って、通信は切れた。



「……伯爵、来るのね」


かおりは、小さく息を吐いた。


「緊張するなぁ……」


「まあ、なるようになる」


爺さんは、相変わらずだ。


「それより」


浴場予定地を見回す。


「忙しくなるぞ」



誰も知らない。


この時すでに――

伯爵の娘自身もまた、

「その場所」を目指そうとしていることを。


大衆浴場の湯気は、

まだ静かに立ち上がったばかりだった。

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