まさかの三本目
「……二本目の井戸は」
かおりは、掘削予定地を見回した。
「これは、手の空いてる人に任せようかな」
突き井戸の仕組みは、もう共有できている。
道具も揃っている。
「いざって時に、自分たちで掘れるって大事よね」
そう言うと、弟子の一人が胸を叩いた。
「ここは俺たちに任せてくれ!」
「手順も分かってるしな」
「頼もしい」
かおりは笑って、そちらを任せることにした。
◇
「……さて」
かおりは、三本目の候補地に立った。
「ここなんだけど……」
感覚が、少し違う。
水脈を探った時の、あの“澄んだ違和感”とは違う。
もっと、重たいというか、引っかかる感じ。
「……何か、ありそうなのよね」
一瞬、冗談めかして呟く。
「まさか、原油とか?掘り当てたら……この世界のアラブの王だわ」
自分で言って、少し笑う。
「いやいや。でも、油って色々使えるし……まあ、出たら出たで考えるか」
「よし」
三本目は、自分で掘る。
二回目ともなれば、手際はいい。
かん。
かん。
突き井戸用の打ち込み管が、地面に吸い込まれていく。
「……早いわね」
体も、すっかり慣れている。
「んー……」
途中で、手応えが変わった。
「水源……とは、違う?」
反発が、鈍い。
でも、空洞でもない。
「原油だったら、井戸と同じやり方で平気なのかな……」
そんなことを考えつつも、手は止めない。
「まあ、出たら出たで……」
かん。
かん。
◇
「……そろそろ、かな」
打ち込み管の奥から。
ぼこっ。
ぼこぼこっ。
「……?」
空気が、上がってくる。
「ん?」
次の瞬間。
「……なに、この匂い」
油とも、泥とも違う。
鼻を突く、独特の硫黄臭。
「……あ!これ!温泉水!?」
思わず声が出る。
「しかも……」
手を近づけて、すぐ引っ込めた。
「熱っ!!ちょ、待って!高温水だ!!」
◇
「まずいまずいまずい!」
かおりは、周囲を見回す。
「コック!バルブ!!早く付けないと、吹き上がる!」
慌てて工具を取り出し、即席で栓を取り付ける。
「……止まれ、止まれ……!」
一瞬、緊張が走り。
――ぴたり。
噴き出しは、収まった。
「……ふぅ」
その場に、へたり込む。
「……原油じゃなかったけど」
「これは、これで……」
かおりは、ゆっくり立ち上がった。
「大当たり、かも」
温泉。
高温水。
使い道は、いくらでもある。
「……でも」
爺さんの顔が、頭をよぎる。
「これは……また、厄介そうね」
かおりは、深く息を吐いた。
三本目の井戸は、
水でも油でもなく――
新たな“管理案件”を静かに噴き出させていた。




