お友達からの連絡
「……お、来たか」
倉庫の奥。
通信魔道具が、かすかに光を放った。
爺さんは、手を止めて魔道具を覗き込む。
「どうじゃ?」
◇
『最初はな、相当警戒されたぞ』
向こう側から、聞き慣れた声。
『だが……上手くいった』
「フォフォ」
爺さんは、満足そうに笑った。
「それは何よりじゃ。調子はどうだ?」
『動く車椅子を見た瞬間、侯爵がな!完全にドン引きしておったぞ』
「はっはっは!」
爺さんは、腹を抱えて笑う。
「笑える!お主も、ここで同じ顔をしておったではないか」
『……まあ、確かに』
向こうも苦笑した声になる。
『慣れというのは、怖いな』
◇
『補助器具の方も、問題なかった。お嬢様は、今、毎日練習に励んでおる』
『表情がな……明るくなった』
爺さんは、ふっと目を細めた。
「それは……良かったのう」
『侯爵も、たいそう喜んでおった。久しぶりに、声を出して笑っていたぞ』
「フォフォ……それは、かおりにも伝えねばな」
◇
爺さんの表情が、少しだけ引き締まる。
「……問題は、その後じゃな?」
『ああ』
『かおりの性格については、話しておいた』
『名誉も爵位も権力も金も興味がないとな』
『侯爵、頭を抱えておったぞ』
「想像がつくわい」
爺さんは肩をすくめる。
『考える時間が欲しいと少し、領地に滞在してくれと頼まれた』
「ほう!何を、出してくるかの?」
『さあな?だが侯爵だ!もしかすると……あの街の領主を、変えるかもしれん』
◇
爺さんは、静かに息を吸った。
「それは……良い話じゃな!そうなれば、かおりも街に安心して行ける」
『ああ!そうなるといい!また何かあったら、連絡する』
「フォフォ!」
通信が、ふっと途切れる。
◇
爺さんは、しばらく魔道具を見つめていた。
「……世界が、少しずつ動き始めたか」
それは、かおりが望んだ形とは、少し違うかもしれない。
だが。
「守れる道が、見え始めたのう」
◇
――その頃。
「かん!」
「かん!」
澄んだ金属音が、空気を震わせていた。
「……あと、三メートルくらい?」
かおりは、汗を拭いながら、突き井戸の管を見下ろす。
「水脈……たぶん、この下」
確信はない。
それでも。
「ここまで来たら、やるしかないわよね」
かん!
かん!
ハンマーを振る手に、迷いはなかった。
◇
爺さんは、遠くからその様子を見て、微笑む。
「……知らぬうちに、大きな流れを作る娘じゃ」
だが、今のかおりは。
世界のことも、侯爵のことも知らない。
ただ――
水を引くために、
暮らしを良くするために、
目の前の地面を、ひたすら叩いているだけだ。
「あと少し、頑張ろう」
その一打一打が。
やがて人を呼び、
土地を潤し、
争いを遠ざける礎になるとも知らずに。
かん、という音が。
今日も、静かに響いていた。




