謎の種と耕運機講習会
「……さて」
かおりは、倉庫前に並べられた小袋を見下ろした。
「これが……謎の種、ね」
ミリャから渡されたものだ。
布袋や紙袋に分けられているが、文字はない。形も色も、見覚えがあるような、ないような。
「この世界の野菜って、本当に自由よね……」
丸いもの、細長いもの、角ばったもの。
種の時点ですでに個性が強い。
「まあ、考えても仕方ないか」
育ててみれば、分かる。
◇
その前に。
「……よし」
かおりは、倉庫の中へ声を張った。
「弟子さーん!集まってください!」
呼ばれて集まってきたのは、魔術師の弟子たち数名と、作業を手伝っていた者たち。
「今日はね」
かおりは、小型耕運機を軽く叩いた。
「これを見せます」
「おお……」
すでに噂は回っていたらしく、皆の視線が一斉に集まる。
「これが、小型耕運機」
「畑を耕すための道具よ」
「魔力で動くけど」
ここで、少し間を置く。
「まず言っておくね」
表情を引き締める。
「これは、便利な道具だけど」
「危ない道具でもある」
場の空気が、自然と引き締まった。
◇
「だから今日は」
「作り方と使い方、両方やります」
「まずは作製から」
かおりは、事前に用意していた部品を並べる。
回転軸。
魔力制御部。
安全遮断用の簡易機構。
「基本構造は、同じ」
「でもね」
かおりは、制御部を指差す。
「ここ」
「出力を、わざと弱くしてる」
「え?」
弟子の一人が声を上げる。
「弱くて、大丈夫なんですか?」
「大丈夫」
かおりは即答した。
「畑は、壊すものじゃない」
「人が押して歩ける範囲で、十分」
「それ以上は――危険」
爺さんの言葉が、頭をよぎる。
便利なものほど、制限が必要。
◇
数時間後。
「……よし」
倉庫前に、小型耕運機が三台並んだ。
「これで、必要分はひとまず確保」
ミリャが感心したように言う。
「早ぇな」
「設計が固まってるからね」
「……次」
かおりは、手を叩いた。
「ここからが本番」
◇
畑予定地。
「講習会、始めます!」
かおりは声を張った。
「まず」
「刃が回ってる時は、絶対に近づかない」
「足元注意」
「服は、だぶつかせない」
「手袋は必須」
「止めたい時は、これ」
レバーを離す。
刃が、すっと止まる。
「手を離せば止まる」
「これ、命守る機構だから」
皆、真剣に頷く。
◇
実演。
かおりが、ゆっくりと耕運機を押す。
ざく、ざく。
「このくらいで、十分」
「深くしすぎると、根が育たない」
「へぇ……」
弟子たちは、感心したように見ている。
「次」
「一人ずつ、触ってみよう」
最初は、おっかなびっくりだったが。
「……お、軽いな」
「押すだけだ」
「魔法より、安定してるかも」
次第に、表情が和らいでいく。
◇
一通り終わったところで。
「最後に、大事なこと」
かおりは、真剣な顔で言った。
「これは、勝手に改造しないで」
「出力上げるの、禁止」
「武器転用、絶対ダメ」
空気が、ぴんと張る。
「もし壊れたら」
「必ず、私か、爺さんに言って」
「……分かりました」
弟子たちは、揃って頷いた。
◇
講習会が終わり、畑には耕された区画がいくつもできていた。
「……よし」
かおりは、ミリャからもらった謎の種を手に取る。
「じゃあ」
「次は、種まきね」
何が育つかは、分からない。
でも。
「育てば、食べられる」
「食べられれば、生活になる」
耕された土の上に、そっと種を落とす。
家庭菜園(仮)は――
いよいよ、“みんなの畑”として動き出したのだった。




