試作四苦八苦
「……うーん」
かおりは、唸りながら補助器具を見つめていた。
設計図通りに作ったはずだ。
出力は抑えた。
魔石も小型。
風の流れも限定的。
――なのに。
「……微妙に、思ったのと違う」
試作品一号は、動きが鈍すぎた。
装着して一歩踏み出してみると、
補助が入るのが遅い。
「これだと……」
「転びそうになってから、助ける感じね」
それでは意味がない。
助けたいのは、“動こうとした瞬間”だ。
「じゃあ、反応を早く……」
魔力導線を少し調整し、再度試す。
今度は――
「っ!?」
一歩目で、体が前に引っ張られた。
「危なっ……!」
慌てて踏みとどまる。
「ダメダメ!これ、強すぎ!」
ほんの少し調整しただけなのに、
結果は極端に変わる。
「……人の体って、本当に、繊細ね」
◇
次は、動力付き車椅子の方。
こちらは、押す人の負担を減らす設計だ。
「前進時に、軽く風を後ろから当てる……」
理屈は簡単。
でも、実際にやってみると――
「……あ」
ゴロゴロ……ではなく。
スッ……と、想定以上に進む。
「ちょっと待って!」
慌てて止める。
「これ、平地だからいいけど……坂道だったら?」
想像しただけで、背筋が冷えた。
「……これは。。ブレーキ連動、必須ね」
止めようとした時に、
魔力が即座に遮断される構造。
「便利にすると制御が、もっと必要になる……」
爺さんの言葉が、頭をよぎる。
――便利なものほど、制限が必要。
「ほんと、その通り」
◇
何度も。
作っては、壊し。
調整しては、戻し。
「……はぁ」
気づけば、周囲には失敗作が並んでいた。
弟子の一人が、遠慮がちに声をかける。
「……かおりさん」
「はい?」
「これ……」
「魔法の問題というより、人の動きですよね?」
その一言で、かおりははっとした。
「……そうか」
「私、道具側ばっかり見てた」
歩く。
押す。
立ち上がる。
それぞれに、癖がある。
力の入れ方も、タイミングも違う。
「……なら、機械が主役じゃ、ダメなんだ」
かおりは、図面を引き直す。
「人の動きに合わせる道具は、後から付いてくる」
◇
発想を変えると、少しずつ見えてきた。
常時補助ではなく、
“力が入った時だけ”反応する構造。
風魔法を、押すのではなく、
“軽く受け止める”ように使う。
「……これなら」
試作四号。
装着して、一歩。
「……あ」
軽い。
自分で歩いている感覚は、そのまま。
でも、負担だけが減っている。
「……これいい……!」
走れない。
跳べない。
無理は、できない。
でも。
「ちゃんと、“補助”だ」
◇
爺さんが、いつの間にか背後に立っていた。
「どうじゃ?」
「……四苦八苦してます」
正直に言うと、爺さんは笑った。
「それで良い」
「簡単に出来るなら」
「それはもう、危険じゃ」
かおりは、少し考えてから言った。
「……思ったんです。この道具使う人によって調整、必要ですね」
「うむ。だからこそ」
爺さんは、頷く。
「量産は禁止、じゃ一人一人に合わせて作る。それが、最も安全じゃ」
かおりは、深く頷いた。
「……時間、かかりますね」
「かかる方が、良い」
爺さんは、静かに言った。
「急ぐと大事なものを、置いていく」
◇
夜。
作業台の上には、
失敗作と、成功に近い一つ。
「……完璧じゃないでも一歩、前進」
かおりは、そっと試作品を撫でた。
治さない。
変えすぎない。
でも、支える。
「……これなら渡せる、かもしれない」
まだ、完成ではない。
けれど。
試作四苦八苦の中で、
かおりは確かに掴み始めていた。
――“人に寄り添う道具”という答えを。




