動かす者、繋ぐ者
「……ミリャ、ちと来い」
爺さんに呼ばれ、ミリャは手を止めた。
「どうした?」
「確かお主、いつも三週間ほど狩りに出て、魔石を街で買い取らせておったな?」
「ああ。だいたいその周期だな」
爺さんは、懐から小さな布包みを取り出した。
中には、薄く色を帯びた魔石がいくつか。
「これを、いつも通り買取に出して来い」
ミリャは、一瞬だけ眉を上げた。
「……充電した魔石、だな?」
「そうじゃ」
爺さんは、低い声で続ける。
「お主が戻らんとなれば、森の見回りが滞る」
「そうなれば、警備隊が動く可能性もある」
「“いつも通り”が、一番の隠れ蓑じゃ」
ミリャは、すぐに納得したように頷いた。
「あー……確かに」
「変な動きは、逆に目立つな」
「分かった」
ミリャは、魔石を受け取る。
「いつも通り、狩りをして」
「いつも通り、街で売ってくる」
「値段も、欲張らん」
「それでよい」
爺さんは、満足そうに言った。
「無理はするな」
「お主が“帰ってくる”ことが、何より大事じゃ」
「任せとけ」
ミリャは、いつもの装備を整え、森へ向かって歩き出した。
その背中を、爺さんは静かに見送った。
◇
――その日の午後。
森の入口が、少しだけ騒がしくなった。
「師匠!」
「お久しぶりです!」
現れたのは、数名の若者。
ローブ姿に、魔道具を抱えた者もいる。
「手紙を見て、すぐに参りました!」
「……相変わらず、足が早いのう」
爺さんは、苦笑混じりに迎えた。
「遠い所を、ご苦労じゃ」
弟子たちは、周囲を見回す。
倉庫。
建ち並ぶ家々。
人の気配。
「……ここが?」
「ええ。話に聞いた以上ですね……」
爺さんは、ふっと笑った。
「そうじゃ」
「ここから――」
杖を軽く鳴らす。
「世界を、変えるぞ」
弟子たちの目が、輝いた。
「……っ!」
「師匠らしい!」
その様子を、少し離れた所から、かおりが見ていた。
「……爺さんのお弟子さん、ですか」
「そうじゃ」
爺さんは、かおりを呼ぶ。
「かおりさんや」
「はい」
「こいつらを、使え」
弟子たちが、一斉に背筋を伸ばす。
「現場で学べ」
「頭で考えるな」
「手を動かせ」
「そして」
爺さんは、かおりを見る。
「こっちの世界の魔道具の理屈を、覚えろ!基礎は、こやつらが叩き込む」
「……分かりました」
かおりは、深く頷いた。
「その上で」
爺さんは、にやりと笑う。
「お主が“便利だ”と思う物を、言え」
「それを再現させてみろ」
弟子の一人が、思わず声を上げる。
「え、いきなりですか!?」
「いきなりじゃ!無理なら、無理と分かる」
「出来るなら、形になる!それでよい」
かおりは、少し考え、そして笑った。
「……じゃあ。まずは、“長時間安定して動く灯り”から」
弟子たちが、ざわつく。
「魔石の消費を抑えて?」
「明るさは一定で?」
「……難題だな」
「でも」
かおりは、倉庫の明かりを見上げた。
「ここでは、もう出来てます」
爺さんは、満足そうに頷いた。
「よい」
「お互いに教える側と作る側。両方が揃った」
外では、ミリャが森を進んでいる頃だろう。
内では、新しい歯車が噛み合い始めた。
表では、“いつも通り”。
裏では、“次の段階”。
誰にも気づかれぬまま、
この場所は、確実に前へ進んでいた。




