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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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計画を実行

朝の空気は、少し張り詰めていた。


倉庫の前で、爺さんは一通の手紙を手にしていた。

封は簡素だが、魔力で薄く印が施されている。


「これを、渡しておくれ」


差し出された手紙を受け取ったのは、街へ行く役を任されている男だ。


「おう。任された」


男は手紙を懐にしまい、肩を鳴らす。


「街に行くついでだ。何か必要な物も、帰りに買ってくるぞ」


爺さんは、少し考える仕草をした。


「そうじゃな……」


「それなら、食料品を頼むかのぅ」


「分かった。干し肉と穀物、あとは保存の利く物を中心にな」


「酒は……」


「今回はやめとけ」


即答だった。


男は笑い、頷く。


「了解。じゃあ、二日ほどで戻る」


そう言って、森の中へと消えていった。


――計画は、静かに動き出した。



一方、その頃。


かおりは、倉庫の奥にこもっていた。


作業台の上には、魔力集束板。

改良中の魔力充電器。

そして、いくつかの空になった魔石。


「……やっぱり、ここが無駄ね」


指でなぞりながら、独り言を呟く。


充電自体は、できている。

だが、効率が安定しない。


「一気に集めようとすると、流れが荒れる」


「なら……」


かおりは、電線の取り回しを少し変え、集束板の配置をずらした。


「段階的に、だわ」


魔力を溜めるのではなく、

“通す時間”を伸ばす。


電気と魔力が、同時に存在する時間を意識的に作る。


「……イメージとしては」


「充電じゃなくて、馴染ませる、かな」


スイッチを入れる。


倉庫内の明かりが、僅かに揺れた。


「……大丈夫」


深呼吸し、魔石を置く。


集束板の上で、魔石が静かに光を取り戻していく。

昨日より、穏やかだ。


「……いい感じ」


かおりは、ノートに簡単な図とメモを書き留めた。


――爺さんとの約束通り、詳細な記録は残さない。

だが、考え方だけは、忘れないように。


「便利にしすぎない」


「でも、壊れない程度には、良くする」


誰に言われたわけでもない。

自分で決めた、線引きだった。



昼過ぎ。


倉庫の外では、建築の音が続いている。

丸太を運ぶ声。

風魔法で木を浮かせる感嘆の声。


だが、今日はいつもより静かだ。


皆、どこか“外”を意識している。


「……噂、広まるかな」


かおりは、ふと手を止めた。


副産物処理場。

危険な研究地。


嘘だ。


でも、守るための嘘。


「……爺さん、大変だな」


自分は、作る側。

爺さんは、守る側。


役割は、はっきり分かれている。


「私は……」


「中を、ちゃんと整えよう」


その日の夕方。


改良した充電器で、三つの魔石が安定して色を戻した。


完全ではない。

だが、使い切りではない。


「……これなら」


「“処理”って言っても、嘘じゃないわね」


使い切った魔石を、再び“処理”する。

表向きには、危険を減らす行為。


実際には――

価値を、静かに延命する。



夜。


倉庫の明かりが、いつも通り灯る。


爺さんは、外で空を見上げていた。


「……さて」


計画は、動き始めた。


噂は、いずれ流れる。

空の魔石は、集まる。


だが、それは表向きの話だ。


本当の狙いは――

ここが“ただの処理場”として認識されること。


「焦らず」


「目立たず」


「静かに、な」


倉庫の中から、作業音が聞こえる。


その音を背に、爺さんは小さく笑った。


「良い滑り出しじゃ」


計画は、実行された。


誰にも気づかれぬまま。

確実に、次の段階へと進み始めていた。

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