とりあえず守れるようにしよう
拠点として使える。
水も電気も通っている。
食料もしばらくは問題ない。
そこまで確認して、かおりは一つだけ、意識的に考えないようにしていたことを思い出した。
「……でも、無防備すぎるわよね」
森の中だ。何がいるか分からない。人かもしれないし、動物かもしれない。それ以外の“何か”の可能性も、否定はできない。
扉一枚で守られているだけの倉庫。
ここを拠点にするなら、最低限の防衛手段は必要だった。
「銃……は、さすがにないし」
苦笑しながら、かおりは倉庫内を見回す。
工具、金属パイプ、木材、結束バンド、ネジ、テープ。
「……あるもので作るしかないか」
何でも屋の仕事は、いつだって即席だ。
まず選んだのは、長さ一メートル半ほどの金属パイプ。元は棚の補強用だ。これに、先端をどうにかして“刺さる形”にする。
万力で固定し、ハンマーで叩く。完全な刃にはならないが、先を潰して尖らせることはできた。
「よし……これなら」
次に、滑り止めとして持ち手部分に布テープを巻く。手袋をしていても握りやすいよう、少し太めに。
仕上げに、結束バンドで簡易のガードを付ける。突いたときに手が滑って前に行かないためだ。
完成したそれは、槍と呼ぶには少し無骨で、パイプ棒と言った方が正確かもしれない。
それでも。
何もないより、ずっといい。
「……うん。悪くない」
かおりは軽く振ってみる。重心は前寄りだが、両手で扱えば問題ない。
次に作ったのは、簡易の盾代わりだ。
木製パネルに、不要になったゴムマットを貼り付ける。衝撃吸収と滑り止めを兼ねている。持ち手は、ベルトとボルトで固定した。
「本格的じゃないけど……時間稼ぎにはなる」
武器としては素人仕事だ。
でも、素人なりに“危険を避ける形”にはなっている。
完成品を壁に立てかけ、かおりは一歩下がって眺めた。
「……何でも屋、武器職人も兼任かぁ」
思わず笑ってしまう。
だが、心の奥では少しだけ安心していた。
準備をすることで、不安は具体的な形になる。
形になれば、対処できる。
最後に、倉庫の出入口周辺も見直した。ドアの前に物音が出やすい金属部品を並べ、簡易の警報代わりにする。
「近づけば、音で分かる……はず」
完璧ではない。だが、ゼロよりは遥かにマシだ。
かおりは槍を手に取り、静かに息を整えた。
「よし。これで、少なくとも逃げる時間は作れる」
外の世界は、まだ何も分からない。
だからこそ、準備する。
何でも屋の仕事は、困る前に備えることでもあるのだから。
そうして彼女は、今日も一つ。
異世界で生きるための“道具”を増やしたのだった。




