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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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かおりの発想 × 魔術師の経験

老人――街では“爺さん”としか呼ばれていない魔術師は、その日から倉庫の一角を定位置にした。


「……落ち着かん建物じゃ」


そう言いながらも、嫌がっている様子はない。

むしろ、壁や天井、照明をじっと観察しては、小さく鼻を鳴らしている。


「魔道具でも結界でもないのに、一定の流れを保っておる……」


「電気です」


かおりが即答すると、爺さんは一瞬だけ黙り込んだ。


「……その“電気”とやらは、魔力ではないのじゃな?」


「似てるけど、別物です」


「ふむ」


そこからだった。


二人の間に、不思議な空気が流れ始めたのは。


「魔石は、魔力を溜めて放出する器じゃ」


「はい」


「だが通常は、“使われる前提”で作られておる」


「……使い切り前提、ですね」


「そうじゃ」


爺さんは、魔力集束板を指で叩く。


「じゃが、お主のこれは違う」


「“魔力が通る場所”を作っとる」


「器ではなく、場」


かおりは、少し驚いた顔をした。


「……その表現、しっくり来ます」


「魔術師はな」


爺さんは、ゆっくり言う。


「魔力を“操る”ことばかり考える」


「だが、お主は」


「魔力が“どう動きたがるか”を考えておる」


「……癖、みたいなものです」


「何でも屋は、物の性格を見ますから」


爺さんが、ふっと笑った。


「なるほどのう……」


その日の午後。


二人は、集束板を前にして向かい合っていた。


「質問してもいいですか?」


「よかろう」


「魔石って……魔力しか溜められないんですか?」


爺さんの眉が、わずかに動く。


「……普通は、そう考える」


「でも、“電気”は溜まる」


「なら」


かおりは、指で集束板の縁をなぞった。


「魔力と電気の“境目”って、どこなんでしょう?」


沈黙。


爺さんは、しばらく考え込んだ。


「……境目を、作っておらんのかもしれん」


「え?」


「お主の装置は、魔力と魔力でないものを分けておらん」


「混ざることを、許しておる」


「だから……」


爺さんは、魔石を見る。


「魔石が、“拒否せん”」


かおりは、息を吸った。


「……なら」


「境目を作ったら、どうなります?」


今度は、爺さんが目を見開いた。


「ほう」


「魔術師なら、どうします?」


「分離じゃな」


「魔力は魔力として、純度を高める」


「……私は」


かおりは、首を傾げる。


「使いやすさ、を優先します」


「多少混ざっても、安定してる方がいい」


二人の視線が、交差した。


そして――同時に、笑った。


「……真逆じゃな」


「ですね」


「じゃが」


爺さんは、集束板に手を置く。


「両方、必要じゃ」


「純度を知る者と」


「混ざりを恐れぬ者」


その日の夕方。


二人は、小さな改造を施した。


集束板の一部に、魔力を“流しすぎない”溝を刻む。

爺さんの魔術的知識で、暴走の芽を潰し。

かおりの感覚で、通り道を確保する。


「これで……」


「急激には溜まらん」


「でも、止まりもしない」


結果は、翌朝に出た。


魔石の色は、昨日よりもはっきりしていた。

だが、不安定な揺らぎはない。


「……成功、じゃな」


爺さんが、深く頷いた。


「これは」


「危険にもなるが」


「正しく使えば、生活を壊さずに済む」


かおりは、胸をなで下ろした。


「良かった……」


「一人でやっておったら」


爺さんは、静かに言った。


「どこかで、踏み外しておったじゃろう」


「……はい」


「逆も同じじゃ」


「わし一人なら、面倒な規制と封印ばかり考えた」


倉庫の中で、明かりが静かに灯る。


「発想と経験」


「どちらが欠けても、危うい」


爺さんは、かおりを見る。


「しばらく、ここで共に考えよう」


「世界を変えぬ範囲でな」


かおりは、力強く頷いた。


「お願いします」


何でも屋の発想と魔術師の経験。


二つが交わった時、この場所は――


“異物”ではなく、静かな実験場として、歩き始めたのだった。

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