建築は進むよ何処までも〜
翌日から、建築の進み方が明らかに変わった。
「……早いな」
ミリャが、組み上がっていく壁を見上げて呟く。
「昨日まで、こんな速度じゃなかったぞ?」
「でしょ」
かおりは、少し誇らしげに頷いた。
「風魔法の使い方、皆だいぶ慣れてきたもの」
丸太が宙に浮く。
以前なら数人がかりで運び、声を掛け合いながら慎重に動かしていた重たい木材が、今ではふわりと持ち上がり、狙った位置へと運ばれていく。
「力任せじゃなくて……」
「支える、流す、止める」
「そうそう、その感じ!」
かおりの声が飛ぶ。
最初は恐る恐るだった風魔法も、今では自然に使われていた。
「持ち上げるんじゃなくて、軽くするイメージだ」
「下から押すだけじゃなくて、周りを包む感じ」
「おお……これ、安定するな」
風魔法が得意な者だけでなく、今まで不得意だった者も、補助として使えるようになってきている。
「……魔法って、こんな使い方もあったのか」
誰かが感心したように呟いた。
「生活魔法だもの」
かおりは言う。
「便利に使ってこそよ」
おかげで、作業は驚くほどスムーズだった。
柱が立ち、梁が組まれ、壁が形になる。
「この分なら……」
木工士が、汗を拭いながら言う。
「二、三日で、寝所は確保できるな」
「屋根まで行けるぞ」
「床も張れる」
「……早すぎる」
ミリャが苦笑する。
「普通なら、もっとかかる」
「普通じゃないのよ、ここ」
かおりは、建ち始めた家々を見回した。
倉庫を中心に、少しずつ集落の形ができている。
「……なんだか、村みたいね」
「拠点、だな」
「まだ小さいが」
「でも、悪くない」
その合間。
かおりは、別の作業にも取り掛かっていた。
「よし、ここでいいかな」
倉庫の少し横。
木材を組み、小さな囲いを作る。
「何だ、それ?」
ミリャが覗き込む。
「鶏小屋よ」
「……ああ」
連れてきた鶏たちが、落ち着かない様子で鳴く。
「ちゃんと囲ってあげないと、夜に襲われるかもしれないし」
「止まり木も必要ね」
「卵も産むだろうし……」
作りながら、かおりの顔が緩む。
「鶏、飼えるなんて」
「嬉しいわ」
「毎日卵が手に入るかもしれないのよ?」
「……そこまで考えてるのか」
「当然でしょ」
何でも屋は、先を考える。
「餌は?」
「最初は余り物と、森の草ね」
「慣れたら、専用に考える」
小屋が完成すると、鶏たちは恐る恐る中に入っていった。
「……かわいい」
しばらく見つめてしまう。
「お前、ほんとに戦闘向きじゃねえな」
ミリャが笑う。
「言わないで」
その日の終わり。
日が傾く頃には、いくつもの建物が骨組みを持ち始めていた。
「……進んだな」
「進みすぎだろ」
「風魔法、便利すぎる」
「もう、前のやり方には戻れねえな」
誰かがそう言って、皆が頷く。
かおりは、少し離れた場所から全体を眺めた。
倉庫。
建ちかけの家。
作業場。
小さな鶏小屋。
「……ちゃんと、生活の形になってきた」
ここは、もう一時の避難場所じゃない。
「住める」
そう思えた。
「よし」
かおりは、手を叩いた。
「明日も、続きをやりましょ」
「寝る場所を、ちゃんと完成させるわよ」
返事の代わりに、笑い声と頷きが返ってくる。
建築は進む。
風に助けられ、人に支えられながら。
この場所は、少しずつ、
確かに“帰る場所”になりつつあった。




