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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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偉いこっちゃ

朝食の後。


かおりは、皆を倉庫の中に集めた。


「ちょっと、見てほしい物があるの」


作業台の上に置かれた木枠。

見た目は地味で、言われなければ何に使うのか分からない。


「……板?」


「昨日の夜、作ったのよ」


そう言って、かおりは中央に置いていた魔石を指差した。


「これ、覚えてる?」


ミリャが眉をひそめる。


「……透明になった、使い終わりの魔石だな」


「そう」


かおりは、それを持ち上げた。


魔石は――

うっすらと赤みを帯びていた。


一瞬、誰も声を出さなかった。


「……は?」


「……色、戻ってねえか?」


「いや、戻ってる……」


「なんで?」


かおりは、少し得意そうに説明する。


「魔力集束板」


「魔力が集まりやすくなる“場”を作ったの」


「生活魔法を使った残りや、周囲の魔力を、少しずつ溜めるのよ」


「無理に吸わないから、安全」


沈黙。


次第に、顔色が変わっていく。


「……待て」


鍛治士が、低い声で言った。


「それ、再利用……できてるってことか?」


「完全じゃないけどね」


「七割くらいまで、かな」


その瞬間。


空気が、凍りついた。


「……偉いこっちゃ」


誰かが、掠れた声で呟いた。


「魔石は、使い切りだぞ……」


「それが……戻る?」


「常識が……」


ミリャが、ゆっくりと頭を抱えた。


「……世の中、変わるぞ」


「いや、変わるどころじゃねえ」


「資源の価値が、全部ひっくり返る」


「領主どころか……王都案件だ」


かおりは、慌てて言う。


「ちょ、ちょっと待って」


「私は、広めるつもりは――」


「分かってる」


ミリャが、真剣な目でかおりを見る。


「だからこそ、危ねえ」


「これ、知られ方を間違えたら……」


「攫われるぞ」


その言葉に、かおりの背筋が冷えた。


「……そこまで?」


「そこまでだ」


一同が、重く頷く。


しばらく、誰も口を開かなかった。


やがて、ミリャが口を開く。


「……話し合おう」


倉庫の一角に集まり、声を落とす。


「このまま、俺たちだけで抱えるのは危険だ」


「だが、誰にでも話せる内容じゃない」


「街の魔術師……」


誰かが言った。


「……あの爺さんか?」


「おう」


ミリャが頷く。


「腕は確かだ」


「金にも名誉にも興味が薄い」


「何より……口が堅い」


「信用、できるな」


「話を聞いてくれそうだ」


かおりは、不安そうに尋ねる。


「……大丈夫なの?」


「一人に絞る」


「判断を仰ぐだけだ」


「それ以上は、広げない」


短い沈黙の後、結論が出た。


「足の速い奴に、呼びに行ってもらう」


「往復、どれくらいだ?」


「最短で二日」


「じゃあ、すぐ出せ」


一人の男が立ち上がる。


「俺が行く」


「頼んだ」


準備は、すぐに整った。


出発前、ミリャがかおりに近づく。


「いいか」


「この間、装置は隠す」


「実験も、止める」


「……分かった」


かおりは、小さく頷いた。


「ごめんね……」


「謝るな」


ミリャは、真面目な顔で言った。


「お前が悪いんじゃねえ」


「ただ……世界が、追いついてねえだけだ」


足の速い男が、森へと消えていく。


倉庫に残った一同は、無言だった。


かおりは、魔力集束板を見つめる。


便利な道具のはずだった。


生活を、少し楽にするだけのつもりだった。


それが――

こんなにも重い意味を持つなんて。


「……何でも屋、やりすぎた?」


小さく呟く。


だが、誰も否定も肯定もしなかった。


ただ一つ、全員が理解していた。


これはもう、

戻れない一歩なのだと。


静かな倉庫の中で、

新しい常識の“扱い方”が、試されようとしていた。

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