建築士かおり??
「えー!?隣に住んでくれるの!?」
思わず声が裏返った。
朝の打ち合わせ中、ミリャからさらりと告げられた内容に、かおりは目を見開く。
「おう。ここ、居心地いいしな」
「い、いや、それは嬉しいけど……」
「それとな」
ミリャは後ろを振り返り、仲間たちを親指で示した。
「連れて来た連中の半分くらいは、ここに住むって言ってる」
「……はい?」
「だからよ。それぞれに合った家、作ってくれ」
「私が!?」
一斉に視線が集まる。
「いいの!?」
「お前以外に誰がやるんだ」
「いやいや、私は何でも屋であって、建築士じゃ……」
「ログハウス建てられるんだろ?」
「……キットだけど」
「十分だ」
即答だった。
「俺たちにも作ってくれ!」
「そうそう!」
「どうせなら、ちゃんとしたのがいい!」
わらわらと集まってくる仲間たちに、かおりは一歩後ずさる。
「ちょ、ちょっと待って!一気に言われても……」
「じゃあ俺から!」
ミリャが一歩前に出る。
「俺は、お前より小さい家でいい」
「うん」
「ただ、狩った魔物を捌くから、作業場が欲しい」
「外でも?」
「血と臭いが出るからな」
「……なるほど。半屋外の解体スペースね」
「そういうのだ」
メモ代わりに地面に線を引く。
「次!」
「俺だな」
鍛冶仕事をしている男が手を挙げる。
「台所は小さくていい」
「料理しない?」
「最低限でいい」
「了解」
「その代わり、金属を打てる場所が欲しい。炉が置けると助かる」
「火を使うから、家とは少し離す?」
「できればそうしてくれ」
「防火対策も必要ね……」
次は女性が一人、手を挙げる。
「私は洋裁をするの」
「裁縫?」
「服の仕立て直しや、新しく作るのも」
「それなら、広めの作業場が必要ね」
「光が入ると嬉しいわ」
「窓、多めね。了解」
続いて、がっしりした男。
「俺は木の加工をする」
「大工系?」
「丸太の加工や、家具作りだな」
「音も出るし、粉も舞うわね」
「だから俺も、広めの作業場が欲しい」
「……作業場だらけね、この集落」
思わず本音が漏れる。
だが、悪くない。
「分かったわ」
かおりは両手を叩いた。
「でも、今聞いたのは概要だけ」
「これから一人ずつ、細かく聞くからね」
「大きさ、動線、危ない作業があるか」
「生活スペースと作業スペースは分ける」
「水と火を使う場所は特に重要」
一同が、ぽかんとする。
「……何でも屋?」
「……建築士?」
ミリャが、面白そうに笑った。
「建築士かおり、だな」
「やめて」
即座に返す。
「責任重くなるでしょ」
「でもよ」
ミリャは、周囲を見回す。
「それぞれが得意なことを持ってる」
「ここに住めば、助け合える」
「悪くない拠点になると思わねえか?」
かおりは、建築中の自分の家を見た。
倉庫。
柵。
人。
仕事。
「……そうね」
静かに頷く。
「じゃあ、やるわ」
「本気か?」
「ええ」
笑って続ける。
「何でも屋だもの」
「困ってる人がいて、材料があって、時間があるなら」
「やらない理由、無いでしょ」
一瞬の沈黙のあと、歓声が上がった。
「よっしゃ!」
「頼んだぞ!」
「俺の家、格好よくな!」
かおりは深く息を吸い、気持ちを切り替える。
「よし」
「まずは、簡単な設計図から」
「今日からここは――」
一拍置いて、宣言する。
「異世界・職住一体型集落、建設計画スタート!」
森の中で、新しい暮らしが、確かな形を持ち始めていた。




