工事開始!
朝から、拠点は騒がしかった。
木を切る音、掛け声、荷物を運ぶ足音。人が増えると、空気そのものが動き出す。
「じゃあ、まずは周りの柵からお願い」
かおりの指示に、連れて来られた面々が頷く。ミリャが間に立ち、簡単に役割を割り振っていく。
「丸太はこの太さで。間隔は詰めろ。入口は二重にする」
「了解」
さすがは慣れた様子だ。かおりはそれを確認してから、一歩引いた。
「私は……住む家を考えようかな」
倉庫の横、少し開けた場所に立ち、周囲を見渡す。
森に囲まれた土地。倉庫があり、柵ができ、畑を作る予定もある。
「まさかここで……庭付き、畑付きの戸建てを手に入れるとはね」
思わず苦笑する。
さて、現実的な話だ。
「広すぎると、掃除が大変」
まず一階。
「リビング、台所、風呂場、トイレ……これで十分」
広さは、全部で三十坪くらい。倉庫に比べれば小さいが、生活するには申し分ない。
「二階は……寝室と書斎」
作業机と本棚が置ければ、それでいい。
「よし、決まり」
問題は、どう建てるかだ。
「……ログハウス、なら」
頭の中に、記憶が浮かぶ。
「建てたこと、あるのよね」
正確には、キットを組み立てるだけの簡易ログハウスだ。それでも、基礎、壁、屋根の構造は理解している。
「丸太も、人手もある」
あとは、設計を簡単にまとめるだけだ。
地面に棒で線を引き、簡単な間取りを描く。
そこへ、ミリャがやって来た。
「何をしている?」
「家の設計」
「……家?」
地面の線を見て、ミリャは首を傾げる。
「変わった形だな」
「見た目は少し違うけど、私の居た世界では、こんな感じよ」
「ほう」
「木を組んで、壁にして、屋根を乗せる。中は分けるだけ」
ミリャは腕を組み、少し考える。
「防御は?」
「柵がある。家自体は、生活優先」
「合理的だ」
その言葉に、かおりは少し安心する。
「じゃあ、まずは基礎ね」
地面を均し、石を敷く。完全なコンクリートは無理でも、湿気対策は必要だ。
「丸太は、あっちで加工してもらえる?」
ミリャが仲間に指示を飛ばす。
「可能だ」
作業は、思った以上に順調だった。
柵作りの音を背に、家の輪郭が少しずつ現れていく。
「……工事、楽しい」
工具を手に、かおりは自然と笑っていた。
何でも屋の仕事は、こういう“形になる作業”が一番性に合う。
夕方、ミリャが完成途中の骨組みを見上げる。
「……やはり、変わっているな」
「そう?」
「だが、悪くない」
その一言で、疲れが吹き飛ぶ。
ここは、住む場所だ。
拠点であり、家であり、生活の中心。
工事は始まったばかりだが、かおりの中では、すでに“帰る場所”としての実感が芽生え始めていた。




