異世界の品物!
荷馬車の後部が開かれ、次々と積み荷が下ろされていく。
かおりは倉庫の前に立ち、その様子を食い入るように見ていた。
「まずは食料だ」
ミリャがそう言って、布をめくる。
現れたのは、肉らしき塊だった。
「……干し肉?」
「燻製と塩漬けだ。長持ちする」
色は濃く、しっかりと乾いている。見た目は硬そうだが、保存性は高そうだ。
「これは?」
「果実を乾かしたものだな」
フルーツドライらしき物。見たことのない果実も混じっているが、甘酸っぱい香りがする。
「野菜もあるぞ」
籠の中には、見覚えのある形の野菜と、完全に初対面の物が混在していた。
「……これは、たぶんキャベツ系。こっちは……何?」
「分からん」
「分からんの!?」
思わず突っ込むと、ミリャは悪びれずに肩をすくめた。
「食べられることは確認してある」
「それ一番大事な情報だけど、不安は残るわね……」
次に出てきたのは、小袋に分けられた粉や粒。
「調味料だ。香辛料の類だな」
「スパイスっぽい……何種類あるの?」
「六種類ほどだ」
鼻を近づけると、刺激的な香り、甘い香り、草のような匂いが混ざる。
「これは……料理が化けるわね」
さらに、瓶詰めの液体。
「酒だ。度数は弱めだが」
「酒っぽい物まで……」
続いて衣服。
布地は厚く、色鮮やかで、どこか民族衣装のような意匠が施されている。
「実用重視だ。森でも動きやすい」
「ありがたいわ」
武器類もあった。クロスボウと矢束。
「これは、そのまんまね」
「予備もある」
そして、袋に入った小さな粒。
「野菜の種だ。種類は分かるか?」
「……いくつかは、たぶん」
最後に、木箱が運ばれてきた。
中から聞こえてくるのは――鳴き声。
「……まさか」
箱が開く。
「コケ……?」
「鶏に近い」
中には、鶏っぽい生き物が十匹。
「卵も産むぞ」
「……最高じゃない」
かおりの声が、少し弾んだ。
一通りの紹介が終わると、ミリャは満足そうに腕を組んだ。
「どうだ?」
「……正直、想像以上」
「そうか」
「それと……」
かおりは周囲に集まった面々を見る。
獣人、人族、数名。
「この人たちは?」
「私の仲間だ。しばらくここで、お前がこの世界に慣れるまで共に過ごす」
「……本気で支援する気ね」
「信用したからな」
さらに続ける。
「彼らも、労働力として使ってくれ」
かおりは一瞬考え、それから頷いた。
「それなら、まずやることは決まってる」
指差すのは、倉庫の周囲。
「ここを中心に、ちゃんとした柵を作る」
「丸太柵だな」
「ええ。それと」
視線を建物へ向ける。
「私の住居も必要ね。倉庫に寝泊まりは、いつまでもは無理」
ミリャは納得したように頷いた。
「理にかなっている」
倉庫の前に集まった人と物。
ここはもう、単なる避難場所じゃない。
拠点だ。
かおりは深く息を吸い、仲間たちを見渡した。
「よし。じゃあ――何でも屋、異世界支店。開業準備に入ります!」
その宣言に、ミリャは小さく笑った。
「ようやく、始まったな」
異世界での生活は、確実に次の段階へ進もうとしていた。




