待つ時間、積み重ねる日々
朝の光で目が覚めた。
倉庫の天井越しに差し込む柔らかな明るさは、森の中にいることを思い出させる。それでも、不思議と落ち着いて起き上がれた。
「……おはよう、私」
小さく呟いて、伸びをする。
まずは身支度。顔を洗い、簡単に髪を整える。鏡に映る若返った自分には、まだ完全には慣れないが、毎朝見るたびに「現実なんだ」と理解させられる。
「さて」
今日やることは、決まっている。
倉庫内の確認だ。
棚の前に立ち、上から下まで順に見ていく。何があって、何が使えて、何が今後役に立ちそうか。
「電気工具……問題なし」
「手工具……揃ってる」
「配線材……在庫は十分」
箱を開け、ラベルを貼り直し、分類を細かくする。今までは「何となく分かっている」で済ませていたが、ここではそれが命取りになる。
「……倉庫が、そのまま世界のすべてだものね」
防災用品の棚も再確認する。非常食、水、簡易医療キット。
「食料は……あと、どれくらい?」
指折り数え、計算する。
「ミリャが言ってた日数的には……余裕はあるけど、節約は必要ね」
確認が終わると、次は整理だ。
通路を広く取り、重い物は手前へ。軽い物は上へ。使用頻度を考えて配置を変えていく。
「……うん、だいぶマシ」
何でも屋としての癖が、自然と出る。使いやすさは、作業効率に直結する。
昼前には、一度外へ出る。
柵の状態を確認し、緩んでいる部分を締め直す。土を踏み固め、昨日の雨で流れた場所を補修する。
「少しずつでいい」
誰に言うでもなく、そう呟いた。
昼食は、相変わらず非常食だ。味気ないが、腹は満たされる。
午後は、魔法の軽い復習。
風で軽い物を動かし、火を最小限灯す。水を出し、すぐに止める。
「使いすぎない、使いすぎない」
感覚を忘れないための、最低限の確認だ。
そうして一日が終わる。
二日目、三日目も、大きくは変わらない。
朝起きて、確認して、整えて、少し作業をして、休む。
単調だが、不思議と退屈ではなかった。
「待つって、案外忙しいのね」
四日目の朝、倉庫の外から聞き慣れない音がした。
「……?」
金属が触れ合う音、木の軋む音、そして――声。
「……人?」
一気に緊張が走る。
槍を手に取り、柵の内側から様子を窺う。
見えたのは、荷馬車だった。
一台、二台……いや、それ以上。
そして、その先頭に立つ、見覚えのある猫族の女性。
「……ミリャ!」
思わず声が出る。
ミリャは手を上げ、こちらに合図した。
「戻ったぞ!」
柵の外には、数人の獣人と人族らしき姿もある。警戒はしているが、敵意は感じられない。
「……荷馬車、何台あるのよ」
「三台だ。ついでに仲間も連れてきた」
「ついでの規模じゃないわよ……」
かおりは苦笑しながらも、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
待っていた時間は、無駄じゃなかった。
整えた拠点、積み重ねた日々。
それらが、今から始まる次の段階に、きっと繋がっていく。
倉庫の前で、かおりは深く息を吸った。
「……さて」
何でも屋の、本当の異世界生活が――
ここから、動き出す。




