出来る事、出来ない事
「さーて……ご飯でも食べようかしら」
かおりは棚から非常食の箱を取り出し、床に腰を下ろした。アルファ化米に保存食の缶詰。味は知っている。悪くはないが、正直言って楽しくはない。
「……味気ないわねぇ」
湯気も香りも控えめな食事を前に、ため息が出る。
「ミリャさんが戻って来るまでの辛抱、よね」
調味料があれば、せめてもう少し気分も変わるのだが。今は我慢するしかない。そう自分に言い聞かせて、黙々と食べ進めた。
食べ終わり、片付けを済ませると、自然と視線が外へ向いた。
「……少し、周りを散策する?」
倉庫の外、柵の向こうには森が広がっている。昼間で視界は良好だ。昨日までより、少しだけ心に余裕もある。
だが、すぐに首を振った。
「いや、まだ危ないわよね」
何がいるか分からない。魔法が使えるようになったとはいえ、経験不足は否めない。好奇心だけで動くのは、何でも屋として失格だ。
「……だったら」
視線が、自分の手に落ちる。
「魔法、少し研究してみようか」
何ができて、何ができないのか。把握しておくべきだ。使える道具は、理解してこそ活きる。
かおりは倉庫の中央に立ち、深く息を吸った。
「まずは……火は一応、出せる」
指先に魔力を集める。昨日と同じ感覚を思い出し、軽くイメージする。
「……火」
小さな、青白い炎がぽっと灯る。
「うん、安定してる」
サイズを少し大きくしようと集中すると、炎は素直に応えてくれた。だが、勢いを出そうとすると、指先がじんわりと熱を持つ。
「……あ、これ以上は危ない」
無理をせず、すぐに消す。
「火は……制御が大事ね」
次は水。
「水……出す、というより」
イメージは蛇口だった。
指先から、ちょろちょろと水が滴る。
「……少なっ」
集中を強めると量は増えるが、その分、頭が少し重くなる。
「長時間は無理、っと」
風はどうだろう。
「風……送る」
軽く手を振ると、空気が動いた。扇風機の弱くらいの風。
「これなら……」
昨日の浴槽の時ほど強くはないが、軽い物を動かすには十分だ。
土は少し迷った。
「土……動かす?」
地面に手をかざすと、表面の土がもぞりと動く。
「……耕す、くらいなら使えそう」
だが、深く動かそうとした途端、急に疲労が増す。
「これは……向いてないかも」
最後は光。
「回復か。。」
いまいち効果が解らないわね。。
一通り試して、かおりはその場に座り込んだ。
「……まとめると」
火、水、風、光は比較的扱いやすい。
土は、少し苦手。
どれも、使い過ぎると確実に疲れる。
「万能、ではないわね」
でも。
「生活する分には、十分」
これが、今の自分の“手札”だ。
「……外に出るのは、もう少し先」
今は、ここを拠点として整える方がいい。
かおりは倉庫を見回し、小さく頷いた。
「焦らない。調べて、試して、備える」
それが、何でも屋のやり方だ。
森の中、倉庫の灯りは静かに灯り続けていた。




