お風呂組立と身体の変化
「さーて!さっさと組み立てますか!!」
気合を入れて、かおりは腕まくりをした。
浴槽と給湯ユニットは、すでに所定の位置に置いてある。あとは配管と固定、それから動作確認だ。何でも屋として、こういう作業は慣れている。
「給水……よし。排水……問題なし」
床に這いつくばりながら、工具を使って一つずつ繋げていく。久しぶりの設備作業だが、手は自然に動いた。
ふと、視界の端に何かが映る。
「……ん?」
顔を上げた先にあったのは、ユニットバスに付属していた鏡だった。何気なく、そこに映った自分の姿を見る。
「………………え?」
思考が止まる。
鏡の中の女性は、確かに自分だ。髪も、目も、表情も間違いない。
だが。
「ちょっと待って」
顔に手を伸ばし、頬を軽く押してみる。指が沈み、すぐに戻る。
「……この肌艶」
くすみがない。張りがある。目の下の影も、気になっていた小じわも見当たらない。
「……10代後半?」
思わず声が震える。
「え、待って待って待って」
倉庫の床に座り込み、改めて鏡を凝視する。
「何で!?私は確か……30……ぴー歳だったはず……!」
胸に手を当てる。息は落ち着いている。身体も軽い。
「……若返ってる」
状況を整理しようとして、ある言葉が頭に浮かんだ。
「……転移特典?」
噂話として聞いたことはある。異世界に行くと、身体が最適化されるとか、若返るとか。
「まさか……本当にあるとは」
少しだけ、複雑な気持ちになる。
嬉しくないわけじゃない。でも、説明もなく起こる変化は、やっぱり怖い。
「……まあ、害は無さそうだし」
今は考えても仕方ない。そう結論づけて、かおりは立ち上がった。
「それはさておき。続き続き」
気を取り直して、組み立てを再開する。
給湯ユニットの固定、配線の確認、最後に水を通す。
「……よし」
蛇口をひねると、水が勢いよく流れ出た。
「問題なし!」
次に給湯。スイッチを入れ、しばらく待つ。
「……来た」
ほんのり温かい湯気が立ち上る。
「完璧!」
達成感に、思わず拳を握る。
湯を張りながら、脱衣スペースで服を脱ぐ。改めて自分の身体を見るが、やはり違和感はない。むしろ、動きやすくなっている気さえする。
「……考えない。今は、お風呂」
湯が溜まったのを確認し、そっと足を入れる。
「……はぁ……」
声が、自然に漏れた。
肩まで浸かり、目を閉じる。
「生き返る……」
森の中、異世界、倉庫生活。緊張が続いていたのだと、今さら実感する。
しばらくして、ふと気づいた。
「……あ」
洗い場を見渡す。
「石鹸……無い」
ボディーソープなんて、もちろん無い。
「……まあ、いいか」
今日は湯に浸かるだけで十分だ。汗と埃は落ちる。
「次は……買ってきてもらわないとね」
ミリャの顔を思い浮かべながら、そう呟く。
湯の中で、かおりは小さく笑った。
身体が変わっても、世界が変わっても。
こうして、湯に浸かって一息つく時間は、変わらない。
それだけで、今は十分だった。




