表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/73

お風呂に入ろう

久しぶりに身体を動かしたせいか、その夜は驚くほどよく眠れた。


目を覚まして、かおりは天井を見上げる。


「……ぐっすり寝たわ」


身体を起こしてみるが、思ったほどの疲労は残っていない。筋肉痛も、あるにはあるが動けないほどではなかった。


「昨日あれだけ動いたのに……」


軽く肩を回しながら首を傾げる。


「よく寝たから?それとも、環境が変わったせい?」


理由は分からないが、体調は悪くない。なら、気にしないことにする。


立ち上がって、ふと現実的な欲求が浮かんだ。


「……お風呂、入りたい」


汗と土の匂いが、今になって気になり始める。シャワーでもいいが、できれば湯船に浸かりたい。


倉庫の中を見回し、記憶を辿る。


「そうだ……!」


以前、店でお風呂と給湯器を交換したとき、回収した部品があったはずだ。まだ使えるから、と倉庫の奥にまとめて置いていた。


「確か、この辺……」


棚の裏、少し埃を被ったスペース。


「あった!」


そこにあったのは、簡易浴槽と小型の給湯ユニット。業務用ほどではないが、家庭用としては十分なサイズだ。


「これを付ければ……入れる!」


一気にテンションが上がる。


が。


「……重っ」


浴槽に手を掛けた瞬間、現実が戻ってきた。


びくともしない。


「無理無理。これ、一人で運ぶ重さじゃない」


引きずろうとしても、床との摩擦でほとんど動かない。


「うーん……」


そこで、ふと昨日のことを思い出す。


青白い炎。

魔力。

イメージ。


「……ん?」


一拍おいて、かおりは口元に手を当てた。


「魔法で……浮かせない?」


視線が浴槽に戻る。


「持ち上げるなら……風?」


ミリャが言っていた。生活魔法は、イメージが大事だと。


「この場合……」


かおりは目を閉じる。


「上から持ち上げるんじゃなくて……下から」


頭に浮かんだのは、昔見た映像。


「……ホバークラフトみたいに」


浴槽の下に、均一な風を送り込む。

支えるように、押し上げる。


指先に魔力を集め、集中する。


「……風」


一瞬、空気が揺れた。


次の瞬間。


「……あ」


浴槽が、ふわりと浮いた。


床から数センチ。完全に持ち上がっているわけではないが、重さが消えている。


「……できた!」


驚きと嬉しさが同時にこみ上げる。


そのまま、ゆっくりと押す。浴槽は抵抗なく滑るように動いた。


「すご……」


設置予定の場所まで運び、そっと魔法を解く。浴槽は、音も立てずに床に収まった。


給湯ユニットも、同じ要領で移動させる。


「……これは、便利すぎる」


一息ついて、ふと気づく。


「……ん?」


眉をひそめる。


「昨日、なんでこれ思いつかなかったのよ」


木を切るとき。

丸太を運ぶとき。

あれだけ苦労したのに。


「風で……転がすとか、浮かせるとか……」


頭を抱える。


「慣れ、ね。完全に」


魔法を“特別なもの”として扱っていたせいで、選択肢から外れていたのだ。


「……道具なのに」


かおりは苦笑した。


「次からは、ちゃんと使おう」


設置が終わった浴槽を見下ろす。


まだ湯は張っていない。それでも、想像するだけで心が緩む。


「よし。今日は、ちゃんとお風呂入ろう」


異世界での生活は、まだ始まったばかりだ。


けれど、こうして一つずつ。

“当たり前”を取り戻していく。


それもまた、生きていくための大事な作業なのだと、かおりは実感していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ