第1.5話:登録面接で能力暴走?女子職員にスカウトされてしまう件
服を着たはいいが、鏡を見てからの絶望感がすごかった。
「……何この完成度。何がどうなってこうなるんだ」
白いシャツにスラックス、黒のジャケット。
ただのスーツ姿のはずなのに、妙にグラマラスで華やかに見えてしまうのはなぜなのか。
いや、理由はわかってる。
顔と身体だ。
黒曜の肌に、流れる銀の長髪。
深く知的な色香を湛えた赤紫の瞳。
無駄な肉が一切なく、でも曲線だけはどこまでも艶やか。
——こんな女が現れたら、そりゃ誰だって二度見するわ。
「はぁ……頼むから、今日は目立たずに済んでくれよ……」
そう呟きつつ、俺——黒月ルシアは、指定された政府機関のビルへと向かった。
都心部の一角に建つ、超能力管理局・中央支部。
ビルの前に立つだけで、内部の防御結界とスキャンシステムが伝わってくる。
「セキュリティ、相当だな……。でも、ガバそうな穴もある。あの窓際、死角だ」
中身が中身なので、無意識にセキュリティの甘い部分を見てしまう。
この辺がもう、一般市民として生きていくのに致命的である。
⸻
受付で名前を告げると、すぐに案内された。
案内役は、20代前半くらいの女性職員だった。
タブレット片手に、笑顔で俺に振り返る。
「黒月ルシア様ですね。こちらへどうぞ」
「……はい」
振り返った彼女の目が、一瞬だけ見開かれたのを俺は見逃さなかった。
目が合った瞬間、頬を赤らめて、わずかに言葉を噛む。
「あ、あのっ……えっと……お、美しいですね」
「……ああ、ありがとうございます(慣れてないからやめてくれ)」
案内されたのは、能力測定室。
簡易なホログラム装置と、精神波・生体反応を分析するコンソールが並んでいる。
女性の担当者が2人、白衣姿で控えていた。
「では、ルシア様。超能力適性の測定に入ります」
「心身に異常が出る場合は中止しますので、リラックスして」
中身は男でも、こうして女性として丁寧に扱われるとやたらソワソワする。
しかも、担当の白衣女子ふたりが、やたら視線を泳がせてくる。
(なんか俺、ずっと見られてない?……ってか、太ももに視線集中してない?)
装置の中央に立ち、言われるまま目を閉じる。
「まずは、念波スキャンを行います」
「念波、ね……昔の“魔力感知”みたいなもんか」
数秒後、機器がビービーと高音を発する。
「えっ……ちょ、ちょっと待ってください、測定不能……?」
「波形が……ぐちゃぐちゃに……」
測定器のパネルに、無数のエラーコードが乱舞する。
液晶がバチバチと音を立ててショートした。
次の瞬間、測定室全体が、黒い“靄”のようなものに包まれた。
それは俺の影から立ち上るようにして、空間全体を覆い始める。
「なっ……これ、何? 結界でも霧でもない……」
「空間ごと、飲まれてる……!? 逃げ——」
「大丈夫、制御してる」
俺が指を鳴らすと、黒い靄はふっと霧散した。
空間の歪みも消え、機器のエラーも止まる。
「す、すみません、制御をミスりました。ちょっと……力の加減がわからなくて」
担当職員ふたりは呆然としたまま、俺を見つめていた。
「……記録外の能力者って聞いてたけど……次元が違いすぎる」
「これ、もし敵対勢力に渡ったら国家レベルの脅威よ……」
「私、あの……個人的には、全然味方なんで……!」
(なんだその謎フォロー。いや可愛いけど)
測定の結果、俺の能力適性は**「ランク外」**と判定された。
データベースに該当する分類が存在しない。
俺の力——
他者の能力を遮断し、取り込み、再現できる「零結界」。
しかも自動で制御され、常時展開されているという、チートの極みだった。
⸻
登録面接後、俺は別室に案内され、スカウトのような話を受ける。
「黒月ルシアさん。もしよければ、国家直属の能力機関にご協力いただけませんか?」
「報酬は、かなり優遇されます。専用の住居、生活支援、あと……個人的に、私たちもサポートに……」
そこには、なぜか先ほどの白衣女子ふたりが正座していた。
(なんで正座してんの……こわ)
——どうやら、俺の静かな人生は、今日で終わったらしい。




