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第3話「進路相談」





























 高校生になって3年目の春。

 ここ最近の私は、よくひとりで頭を抱えている。


「進路?」

「はい…どうしていいか全然わからなくて」


 レジで作業中、たまたまシフトが一緒だった皆月さんに、雑談がてら悩みを打ち明けた。

 皆月さんは地元でもかなり評判の頭のいい女子大に通っていて、今は大学4年生。彼女もまた就活やら何やらで悩んでる時期なんじゃ…?と思ったら、私の悩みも打ち明けやすかった。優しい彼女の人柄もある。

 想像していた通り皆月さんは私の話を親身になって聞いてくれて、しばらくふたりで私の進路について悩んだ。


「高校生なら…まずは進学か就職よね。友江さんはどっちにするの?」

「進学…………いやでも行きたい大学も無いんで、就活でもいいかなって。それすら決まってなくて」

「そっかぁ…やりたい事もないんだっけ?」

「そうなんですよ…それがあれば苦労もしないんですけどね」


 レジでふたり、うぅん…と唸るだけの時間が続く。

 私の話なのにまるで自分の事のように思い悩む皆月さんを見て、ふと。


 …この人も、来年には卒業してこのバイト辞めちゃうんだよね。


 そのことに気付いて、今から少し寂しくなった。

 にしても、社会人の皆月さんか……つい、妄想を膨らませる。

 OLなら事務服か…ゴリゴリにバリキャリなタイトなスカートスーツ姿も似合いそう。ほんわかした雰囲気だから保育士さんも良い。婦警さんとかだったら意外すぎる。あと王道なのはナースさんとかだけど…

 真っ白なナース服に、布がパツパツに張るくらいの豊満な胸元を思い浮かべて、すぐにエロすぎた妄想をかき消すため頭をブンブン横に振る。

 だめだ、頭の中で何を着せてもエッチになってしまう。これは良くない。

 仮にもバイト先の優しい先輩である皆月さんの際どい姿を思い浮かべた事に罪悪感を覚えて、それを誤魔化すために口を開いた。ついでに疑問も解消させとこう。


「皆月さんは、なんの仕事に勤める予定なんですか?」

「司書さんだよ。今のところはそれしか考えてないかなぁ」


 本が好きな皆月さんには意外でもなかった業種に、ひとり勝手に納得する。

 司書…か。司書さんってどんな服なんだろう…?制服とか、そもそもあるのかな。頭の片隅でまた着せ替え人形ごっこを始めようとして、うまく思い浮かばなくて早々に諦めた。


「どうして司書さんなんですか?」

「本が好きだから。…それに、何より安定でしょ?公務員だし、国家資格だし、食いっぱぐれないかなって」


 普段の抜けた天然さとは裏腹に堅実で安定志向だった事に驚きながら、やっぱりこの人ものほほんとしてるように見えてちゃんと考えてるんだな…と、何も考えてない自分の落差に落ち込む。

 みんなどうして、そんな器用に未来の事を踏まえて行動できるんだろう?

 私なんて、明日のことだって見えてないのに。

 お先は真っ暗だ。


「友江さんさえ良ければ…うちの大学に来てみない?」


 そこに、希望の光が差し込んだ。


「6月に学祭があるの。大学がどんな所か…見学がてら、遊びにおいでよ。そうしたら、進学か就活かくらいは決められそうじゃない?」


 実際の大学を見てみたら?という皆月さんからの提案に、私はふたつ返事で頷いた。

 6月ってことは、あと1ヶ月もない。来月までに、一応自分でも大学について軽く調べておくか。


「大学は楽しいよ〜。女子大だから、気も楽だし」

「ここからだと、そんな遠くもないですもんね」

「うんうん。ちょっとだけお金は掛かっちゃうけど…行って損はないと思うよ?」


 もう既に、行く前から進学で決まっちゃいそうだ。そのくらい説得力があって本当に楽しそうな皆月さんを見て、心は揺れ動く。


「大学に入れば…やりたい事も見つかりますかね」

「入る前に学部は選ばないとだから…方向性くらいは決めておいた方がいいかも?」

「方向性…」

「うん。得意なこととか…あ、お友達に聞いてみるのもいいかもしれないね」


 そう言って、大きな胸の前で思い付いたように手を合わせて、可愛らしくにっこりと微笑んだ。…この人やっぱりかわいいな。それに、本当に良い人である。


「ほんとにありがとうございます…女神…」


 可愛くてほんわかしていて、巨乳で、頼りになる先輩に、深々と頭を下げる。もう今日からは足を向けて眠れない。

 崇めるように手をこすり合わせていたら、


「やっ…やめてよ〜、そんな感謝されるようなことしてないよ〜」


 あたふたと困ったような声が聞こえてきて、それが面白くて笑ってしまった。こういう所も魅力のひとつだ。


「いやほんと…すごい悩んでたんですよ」


 冗談もそこまでにしておいて、顔を上げる。


「だから…ありがとうございます。皆月さん」


 少しは悩みも晴れた顔で笑いかけたら、綺麗に整った眉毛が安心した心を表すみたいに垂れ下がった。


「また何かあれば、気軽に相談してね?」

「……そういえば個人の連絡先知らないですね」

「あ。交換する?いいよ〜」

「すみませーん、お会計お願いします」


 エプロンのポケットからスマホを取り出そうとした皆月さんだったけど、男性客に声を掛けられてそれをやめる。

 レジ対応へ向かった後ろ姿を、やっぱり頼りになる人だな…と感心して眺めた。


「え!お姉さんやばいかわいいじゃん」

「え…え、あ…ありがとうございます…?」

「連絡先教えてよ〜!」

「あっ、いや、あの…そういうのは、ちょっと…」

「いいからいいから。今スマホ持ってる?」

「や、えぇ…?えっと…」

「すみません、うちそういうの会社のルールで禁止されてるんですよ」


 毎度のことながらナンパされる皆月さんの前に、遮るように立って客へ告げる。男性客は不機嫌な顔で、さっさと会計を済ませて帰っていった。


「…まったく。なんできっぱり断らないんですか」

「だ、だってぇ…頭真っ白になっちゃって」


 呆れ果てる私に、皆月さんは困った自分の両頬に手を当てた。


「もう次は助けませんからね?」

「う…ご、ごめんなさい」


 しょんぼりと肩を縮こませるその姿に、「やっぱりちょっと頼りないな…」なんて心配になる。

 モテそうなのに、男慣れしてなさそうなのは不思議な感じだ。今まで彼氏のひとりやふたり、当然いただろうに。

 彼氏…って事は過去にあの巨乳を揉みしだいた人がいるってことか。

 チラリ、と皆月さんを横目で見る。


「…?」


 私に怒られたからか、ほんのり涙目になってるその姿に…どうしようもなくいやらしさみたいなものを感じてしまった。

 女の私でさえ魅力的に思ってしまう皆月さんに底知れぬ恐怖みたいなものを感じながら、


「あ。そうだそうだ、連絡先だったよね」


 ようやく2年越しに、彼女の連絡先をゲットしたのである。












 

 










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