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第12話「電話したかった」



























 昨日の夜。

 はじめて、皆月さんの方から電話がかかってきていた。

 勉強に集中するために通知を切っていた事を激しく後悔しながら、気付いてすぐメッセージを送ったけど…もう寝ちゃったのか、夜のうちに返事が来ることはなかった。

 朝になってようやく、


『ごめん寝ちゃってたよ〜』


 と、涙マークの絵文字と一緒に送られてきた。

 何か大事な話があったのかな?と思って用事の内容を聞いたら、


『なんでもないよ〜!いつも電話してたから、電話来ないの気になっちゃって。夜遅くにごめんね』


 そう返ってきた。

 気に掛けてくれたことを嬉しく思いつつ、また負担に思わせたのでは…?と湧き上がってきた不安に思い悩む。

 皆月さんは優しいから、基本的に断るということをしない。バイト中はよくそれでタスクがいっぱいになって大変そうにしてる時がある。…それでも任された仕事は完璧にこなすから凄い。

 そんな彼女だからこそ、もうこれ以上の負担はかけないように気を付けよう……そう、改めて心に決めた。

 だけど。


「昨日も…電話くれなかったね」


 その日の放課後、いつも通りバイト先の本屋へと向かったら、ロッカー室でばったり出くわした皆月さんに、拗ねた顔をされた。


「すみません…勉強してて」


 な、なんでそんなに拗ねてるんだろ…?と動揺しつつ、あくまでも口は平静に言葉を返す。

 自分のロッカーを開けてエプロンを取り出して、制服の上から着る。その作業の間、どうしてか皆月さんはもじもじとして私の隣に立っていた。

 …なんか、言いたいことでもあるのかな。

 もしかして毎日のように電話してたこと実は怒ってるとか…?急に電話かけなくなったから、今になって文句言いたくなったとか。うーん、それ以外に思い当たる節がない。


「あ…あの、渚ちゃん」

「はい」

「今日の夜は…電話、できる?」


 怒られることも覚悟して振り向いたら、予想と反して皆月さんは立てた指の先をつんつん胸のあたりで落ち着きなく合わせながら、そんなことを聞いてきた。

 照れたみたいなその仕草に、心臓がおかしな挙動を見せる。


「で、できない…?」


 私が返事をしなかったから不安に思ったのか、俯きがちだった顔を上げて、伺うように聞かれた。


「できます…けど」

「ほんとに?」

「は、はい」

「じゃあ今日の夜、電話しよ?したい」

「え?あ、はい…」


 あれ。

 もしかして皆月さん、電話するの嫌がってなかった…の?

 さっそく解けた誤解に、安堵よりも先に大きな嬉しさと照れる気持ちが押し寄せた。


「また電話できるの楽しみ」


 むしろ楽しみにしてくれてる反応を見て、ついつい口元はだらしがないくらいに緩んだ。それを悟られないように、すぐに手で覆って隠す。


「あ…でも、忙しいんじゃ」

「いつもくらいの時間なら平気だよ?ちょうど何もやることなくなるから」

「よかった。実は、その……迷惑になってないか、心配で…」

「迷惑なんて…思うわけない」


 否定してくれた後、皆月さんの両手が私の手を包んだ。

 そのまま引き寄せられて胸元まで持って行かれた手の側面にエプロン越しの柔らかな感触が当たって、目をパチクリさせながら冷や汗を垂らした。

 おっぱい柔らか…デカ…


 思考が変態になる前に、


「むしろ電話かけてくれるの、待ってたんだよ?」


 どこか責めるような口調と、ズイと寄ってきた綺麗な顔と、ふわりと香ったいい匂いに、心臓をひねり潰された。

 そんな…かわいい顔で、言われましても。

 どうしていいか分からず、ひたすらたじろぐ。


「電話したかった」


 これはもう、ズルすぎる。

 皆月さんがどんな思いでこんな事を言ってくるのかは分からない。意外と寂しがりやなだけで、他意はないのかもしれない。

 でも、こんなことをされたら…私が男じゃなくても、ドキッとしてしまう。

 そのくらいには魅力しかない拗ねたあざとい顔を向けられていた。


「あー…えっと、皆月さん」

「なぁに」

「おっぱい当たってます」


 湧き上がった色々を誤魔化すために言ったら、すぐにくりくりで大きな瞳が、さらに驚いたように開かれた。

 その後で、じわじわと赤くなっていく。


「っご、ごめんなさい…つい」


 何が“つい”なのかは分からないけど、慌てた様子で握っていた手を離される。よかった、これで理性は保たれた。


「これからは電話できる時、連絡しますね」

「う、うん。そうして?わたしも夜は時間空けておくようにするね」


 わざわざ私のために貴重な時間を割いてくれるらしい皆月さんは、耳まで赤くして照れた顔で微笑んだ。


「でもよかった、この間の学祭で嫌われちゃったかと思ってたから」

「え。なんでそんなこと…嫌う要素なんてないですよ」

「だってずっと暗い顔してたでしょ?無理に誘って嫌な気持ちにさせちゃってたかなって…」

「いやいや。ありえないです。ほんといつも感謝しかないですよ」

「はぁ…よかった」


 心底安堵した様子で、息を吐く。


「これで仲直りだね」

「……そもそも喧嘩してないですけど」

「あ。そっか」


 眉を垂らして笑った皆月さんは、さっきまでの照れはなくて、もういつも通りの調子に戻っていた。





 

 


 












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