番外編1『記されざる日々』
■1ヶ月後・《記録の街》跡地
風が、心地よく吹いている。
崩壊した《大記録盤》のあった場所は、今や小さな広場として整備されつつあった。
俺――ヨシオは、その広場の片隅に腰を下ろし、小さな本を開いていた。
「……今日も何も起きねぇな。いい日だ」
傍らにはリリィがいて、スープをすする音が静かに響く。
「いい日って、ちゃんと食べてから言いなさいよ。スープ冷めるよ」
「食うよ、今。……ほら、リリィが作ったんだし」
「……ふんっ、褒めても何も出ないから」
でも、彼女の頬がほんのり赤いのは見逃さなかった。
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■マリアの“夢”
記録の街のはずれ、小さな木造の家。
そこには、旅の中で拾った古文書や魔道書が積み上げられていた。
「ねぇ、これ見て。どうやら古代には“記録されない魔法”ってのがあったみたいなの」
「記録されない魔法?」
ウケールが本を覗き込む。
「記録を拒む力よ。いわば……完全な自由意志の象徴。もしかしたら、テナの“あれ”もそれだったのかもね」
マリアは言う。
「この世界には、まだまだ知らないことがたくさんある。
……だから、私は“記録の旅”を続けたいの」
ウケールが笑った。
「それじゃあ、俺も地図職人として付いていくしかないな! 不安だけど!」
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■リリィの決意
夜。
リリィがヨシオの隣で、ぽつりと言った。
「ねぇ、ヨシオ。……私ね、この街に診療所を作りたいんだ」
「診療所?」
「旅でたくさん人を助けたけど、もっと“普通の幸せ”もあるって気づいたの。
傷つく人がいない日常……それを支える側になりたい」
ヨシオは、静かに頷いた。
「リリィ、いいと思うよ。……あの時、テナが残してくれたもの、俺たちで繋いでいこう」
「うん……!」
風が吹いた。
静かで、でも確かに“前に進んでる風”。
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■エリュの訪問
ある朝。
エリュがひょっこりと現れた。
「やあ、みんな元気そうで何より。……ちょっと顔出しただけさ」
「まーた、素直じゃない登場の仕方だな」
ヨシオが苦笑する。
「うるさいわよ。……でも、報告だけはしとこうと思って」
エリュは、胸から小さなペンダントを取り出した。
「これは……?」
「“記録の欠片”。大記録盤が砕けたとき、私の胸に入ったものよ。
今、この世界で“真実”を守るのは……多分、私の役目なんだと思う」
「……守ってくれるのか?」
「ええ。あんたが、嘘ついたらすぐ分かるようにね」
エリュはくすっと笑った。
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■ヨシオの最後の選択
――そして、ある夕暮れ。
ヨシオは、一人で旧《記録塔》のあった場所に立っていた。
手には、白紙のノート。
「もう誰にも“記録されない世界”……じゃあ、これからは何を書いていくかだよな」
「仲間との日々か、冒険か、それとも恋か……」
少し考えて、ページにこう書き始めた。
> 『第1章:リリィと、猫を拾う』
「……ま、地味な始まりでもいいか。毎日が物語ってことで」
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世界に“絶対の記録”がなくなった日、
人々は不安になりながらも、自分たちで物語を作り始めた。
ヨシオとその仲間たちは、冒険の末に“未来を書ける自由”を手に入れ、
それぞれの人生を歩み出す。
もう、誰かに決められた運命なんてない。
笑う日も、泣く日も、手を取り合う日も――
それら全部が、“記されざる物語”として、今もどこかで続いている。
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